◆映画「小さいおうち」を見ました。とにかく素晴らしい。絶賛の一言に尽きます。以下、ネタばれ注意です。

    ◆「永遠の0」ファンの方には申し訳ありませんが、比較しようのない差があるように感じます。同じ戦争物、現代人が過去を振り返っていく作品構成などはほぼ同等と見てよいと思いますが、ストーリー、脚本、演出、役者全てが永遠の0を上回っているのではないでしょうか。

    ◆永遠の0ではCGのすごさに圧倒されましたが、一方で、小さいおうちでは最後に「おうち」が空襲で破壊されるシーンの映像技術はいかにもクラシカルです(本当に爆破したとはお世辞にも思えない)。しかし、もはやその演出がすでに皮肉なのか、映像をリアルにすることにどれほどの意味があるの?と逆に問われてしまったかのような印象を受けます。

    ◆先述の通り、過去のことを何も知らない現代人が過去に触れ、影響されるという構成も、永遠の0と同じですが、クオリティは雲泥の差でしょう。現代人を演じた妻夫木聡さんは永遠の0の三浦春馬さんに比べて役者としても一枚上手ですが、それ以上に、そもそも登場人物の設定の開きが余りにも大きい。さすが直木賞です。

    ◆永遠の0の三浦春馬さんは合コンの席で特攻について熱く語り席の空気をおかしくします。しかし、まずそんな若者は現代にいないのではないでしょうか(ミリタリーマニアの合コン以外は)。

    ◆一方の妻夫木さんは、物語の語り手である倍賞千恵子さんが「1930年の東京はそれは活気に満ちていました」と書いた自叙伝を読んで、「その頃は満州事変が起きて、軍国主義の嵐が吹き荒れていたんだよ、過去を美化しちゃだめだよ」と感想。教科書で習った通りの歴史観を持ちだして眉をしかめるのんきな青年がぴったり。そして、そういうセリフをいう若者は確かにいそう。

    ◆その後も、南京陥落でデパートの祝賀セールが楽しみだったという当時の庶民の感覚を、「複雑だな。虐殺があったんだよ」とコメントするなど、体験者と勉強しただけの若者の意識の差が、自虐史観・反自虐史観双方のイデオロギー性を浮き立たせ、実体験に優るもののなさを明確にしています。観客は戦前をリアルに追体験できるといえます。

    ◆永遠の0はやはり登場人物の価値観(家族のために死にたくない、特攻には行きたくない)がどうも現代的で「フィクションくささ」が抜けない気もしましたが、小さなおうちはその点でもリアルです。

    ◆「真珠湾攻撃の勝利が世の中の嫌な雰囲気を一掃してくれた」という主人公のセリフは「そうかも」と納得のいくものですが、永遠の0で「空母がいなかったから真珠湾攻撃は失敗だった」という主人公のセリフは、歴史の検証としては正確だと思いますけど、正確すぎてフィクションくささを消しきれていないといえそうです。

    ◆そして役者の演技の秀逸さは、ベルリンの賞のニュースを聞くまでもありません。

    ◆松たか子さんがとにかく素晴らしい。映画「ヴィヨンの妻」でも巧いと感じましたが、今回はさらに輝いています。近代の女性を演じたら松たか子さんの右に出る女優はおそらくいないのではないでしょうか。年齢が違うので比較は難しいのですが、吉永小百合さんか、松たか子さんか、というレベル。時代劇とも現代劇とも異なる役を演じるには、相当の技術が必要だと感じます。

    ◆ベルリンで賞をとった黒木華さんも確かに素晴らしいのですが、松さんとの二人のシーンが多いので相乗効果もあると思います。二人の息が合っていることが作品の質を高めたといえそうです。

    ◆橋爪功さんも、もともと世間から少し距離を置いて、ぶつぶつ文句言いながら暮らす役が得意な役者さんです。永遠の0にも出演していましたが、主人公について熱く語る生き証人の役より、今回の役の方が橋爪さんの持ち味を存分に活かしているといえます。

    ◆その橋爪さんの技術は、戦時中に銀座で浮気相手とデートした松さん演じる「奥様」の噂を聞いて、仕方ないから注意するために呼び出すも「そんな説教がそもそもバカバカしい」という空気を絶妙に醸し出すシーンに全てが凝縮されています。

    「嫌な世の中になったもんだ。みんな人を指差してモノをいう。そして、優しい声で勇ましいことをいう奴がのさばる」

    というそのシーンでのセリフは書いた作家や脚本家が一流なら、演じた役者も一流といえそうです。現在の世相とも重なります。

    ◆加えて、その説教(最終的に説教になっていないのですが)の後で「トンカツ食いに行こう」と松さんを誘い、その話を聞いた現代人の妻夫木さんが「戦時中だよ。トンカツなんか食べられないだろう」と不満をいうと、倍賞さんが「その当時でも店の玄関を閉めて、馴染みの客にこっそり肉を出す店があったんだよ」という裏話を披露する下りも秀逸です。

    ◆この作品に賞を与えたベルリンは、賞の対象が女優とはいえ、やはりよく見ていると感じます。全体のために個は犠牲にすべきだ、という当時の価値観に疑問をさしはさむ点にこそ、この作品の真価があるのではないでしょうか。

    ◆ラブストーリー・エンターテイメントの仮面をかぶりながらも芯がある作品です。戦争の悲惨さを問おうとしながら、永遠の0はエンターテイメントから脱しきれない、主張も曖昧にせざるを得なかったように感じました。しかし、小さなおうちは、自虐史観をうまく否定しつつ、しかし、だからといって戦前を肯定する訳でもない。バランス感覚が抜群です。

    ◆多額の費用をつぎ込んだ永遠の0と真っ向から勝負しないが、しかし、実は切れ味の鋭い刀の切っ先が永遠の0の咽喉元に迫っている。そんな凄味が映画全体から伝わってきます。大変失礼な評価かもしれませんが、差は歴然です。安倍首相のご感想を伺いたいところです。





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    2014.02.20 Thu  - 歴史観