◆尖閣諸島の実効支配強化、国防軍構想、核開発に向けたシミュレーション等々、勇ましい言葉が飛び交っています。日本外交が良い状況だと考える人は少ないでしょう。なんらかの対策が必要だと考えることは自然です。一方で、それらの対策については常にメリットとデメリットの比較が必要です。仮にデメリットの方が大きいならば、外交の状況はさらに悪化します。

    ◆外交・安全保障政策に関して主要政党の公約・主張を比較すると、当然ですが領土明け渡しといった日本の主権放棄につながる記載はありません。では、どう対処するのか。各党の違いは、そのトーンの差と言えます。現行制度のまま防衛力整備を進める、海上保安庁の機能強化を図るといった対策から、先述のような既成の態勢を変革する動きまであります。

    ◆外交・安全保障に関する問題で、現在の最優先課題は日中関係であり、尖閣諸島に関する問題でしょう。日米同盟の立て直しを訴える声もあります。これは長期的には常に重要な課題ですが、短期的には近隣諸国との領土を巡る対立、外交環境の悪化を受けて、立て直しの重要性が高まっており、その短期的な環境悪化の最たるものは中国です。各党もそこに焦点を当てています。

    ◆筆者は尖閣諸島の国有化には反対でしたし、尖閣諸島に上陸する中国人等への対処についても、日本政府の旧来の姿勢である「事なかれ主義」でよいと考えてきました。弱腰といえばその通りですが、強腰で得られるメリットよりデメリットの方が大きいことは現在の状況を見れば一目瞭然です。

    ◆この点で民主党政権の外交政策のまずさは当然責められて然るべきです。しかし、失策による外交環境悪化を取り戻すことは必要ですが、その問題意識と、取り戻すための具体策が適合しているかを検討する必要があります。いたずらに「外交敗北」とナショナリズムに訴えかける政策が妥当かは、別の問題です。

    ◆結論からいえば、現状の打開は時間をかけて行うべきで、さらなるアクションはデメリットの方が大きいと考えます。具体的には尖閣諸島問題について、必要な機能強化は行うべきですが、島に灯台等の施設を建設したり、海上保安庁が対応している所へ、海上自衛隊を派遣するような積極策は、それによって得られるプラス効果よりもマイナス効果の方が大きいと考えられます。

    ◆今から10年前、小泉政権の靖国参拝が始まり、石原都知事の中国に対する差別発言も出始めました。しかし、当時、10年後に日本が近隣諸国と領土を巡ってこのように激しく対立すると予想した人は少なかったでしょう。今、尖閣諸島の実効支配強化や国防軍構想を掲げ、核開発を検討しても当面は何も起こらないかもしれない。しかし、10年後何が起こっているかは分かりません。

    ◆10年後に日中は武力衝突する事態を迎えているでしょうか?その可能性はまだ高くないかもしれません。では20年後はどうでしょう?それも分かりません。しかし、日中対立の種を撒くような外交を続ければ、種が見事に花開き、開戦を迎える可能性もない訳ではありません。その時に前線で血を流すのは、今、幼稚園や小学校に通っている子供たちです(貴方の子かもしれない)。

    ◆韓国は竹島問題の対処に際して、日本側が何らかのアクションを起こした時に反応するという姿勢を続けてきました。自ら仕掛けるということは慎んでいた訳ですが、先般李明博大統領が竹島を訪問し、日本側は激しく反発しています。その後は対応を控え、時間を使って沈静化を進めています。韓国国民も熱狂的に支持した訳ではなく、大統領の竹島訪問は成功とはいえません。

    ◆日本の尖閣諸島国有化も全く同じ構図です。国民が熱狂的に支持した訳でもなく、日中関係が悪化しただけで得るものはほとんどない。ここで今後の対応をよく考えるべきです。韓国は特に竹島の駐留兵を増やしたり、近海に海軍を配備するといった警備体制強化を行っていません。竹島に追加的に施設を建設している訳でもない。日韓関係もとりあえず小康状態です。

    ◆一方で、日本は韓国と異なる道を進み、尖閣諸島のさらなる実効支配強化に乗り出すべきでしょうか。とりあえず日中関係も今は小康状態です。もちろん公船の領海侵犯が続いていますから竹島と同じとはいえませんし、こんな状態を小康状態と言えるかは微妙です。しかし、では尖閣諸島に何らかの施設を建設すれば、領海侵犯等は収まるかといえばそれも疑問です。

    ◆外交には相手がいます。その相手をコントロールできる訳ではない。こちらが対策を講じれば、当然向こうも対策を講じる。対策の応酬による尖閣諸島の危機の深化が本当によいのか考える必要があります。今の状況は問題だが、さらに問題を増やすのかということです。尖閣諸島問題や安全保障政策全般における積極策より現状維持の方がデメリットは少ないとも考えられます。

    ◆また、領土を巡る対立があるからといって中国と韓国を同じように敵対視するかも検討が必要です。韓国は同じ自由主義陣営ですし、アメリカを介し、中国や北朝鮮といった国と対峙する関係にあります。日本に対する攻撃意欲も中国に比べれば格段に低い。主たる仮想敵国は北朝鮮であり、日本ではありません。一方で中国の仮想敵国はアメリカであり、同盟国の日本です。

    ◆アジアでは自由主義陣営の方が勢力を高めています。ベトナムのような共産主義国家でさえ、南沙諸島問題等で中国とは距離を置いています。一方で、カンボジアは日本が初めてPKO活動に取り組んだ国であり、国連カンボジア暫定統治機構の事務総長特別代表も日本人でしたが、今では中国の経済援助の比重が高まり、アジア諸国の中で中国と最も親しい国の一つとなっています。

    ◆日本はアジアにおける自由主義陣営の強調を高めることで、中国への国際的な包囲網を形成し、軍拡志向・覇権主義をけん制していく必要があります。それを考えれば、カンボジアが親中姿勢を取っていること自体、日本外交の失敗でもあります。そこへ同じ自由主義陣営でありながら日韓両国が対立を深めれば、長期的には中国を利するだけでメリットは少ない。

    ◆軍の名称復活は中国・韓国だけでなく、アジア諸国の反発も招く可能性もあります。核開発を志向すればアメリカやヨーロッパの批判も避けられません。特に日本維新の会の石原代表のように「自国の発言力を高めるため」という理由での核開発志向は、イランや北朝鮮と同じ考え方ですから共感や理解を得ることは絶対にないでしょう。非常に珍しいメリットゼロの政策です。

    ◆今回の衆院選は様々な要素があり、何を基準に選択するかが難しい状況です。その中で外交・安全保障に対する危機は、日本は長い期間平和が続いたために喫緊の課題ではないとして見過ごされがちです。しかし、筆者は各党の短期的政策こそ団子状態であり、長期的課題への対策には相当な開きがあると見ています。長い目で将来不安を考えることが非常に重要と考えます。



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    2012.12.07 Fri  - 外交 -   コメント 0件

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