◆前回衆院選後、始まった民主党政権の最大の政治エポックは消費税増税といっても過言ではないでしょう。それも、参議院で野党勢力が過半数を得ている中で、自民党・公明党と連携して実施した訳ですから、政権交代を経ても政策が継続されるよう、与野党対立を超えて長期的な視点で立法化したと言えます。

    ◆ところが、その与野党対立を超えた問題意識の共有、政策の継続性が、選挙を期に、早くもブレています。自民党の安倍総裁は増税の凍結を口にしました。法律に経済状態によっては増税を凍結できる項目を加えているため仕方がないのですが、自民党の公約には一切記載されていないため本当に凍結するか不明です。選挙期間中の甘言なのかよく主張を聞かなければなりません。

    ◆公明党はホームページのトップ項目に一部の商品の税率を低く抑える軽減税率の導入を掲げています。消費税率を最終的に10%に引き上げる法案は公明党も賛成して可決したはずですが、この公約を実現するには、自ら賛成した法案を早くも修正するということのようです。理に適っていないようにも感じますが、低所得者への課税強化には反対する姿勢が見てとれます。

    ◆筆者は以前、物価の下落以上に賃金の下落幅が大きいことを指摘しました。物価の下落を「安くなった」と感じれば本来消費者の消費意欲は刺激されるはずです。ところがモノの売れ行きは一向に上向かない。筆者はその原因を大きく分けて以下の三点と見ています。

    1.「給料も下がっており、出費を抑えたい」という意識が強く、消費者の実感としては懐が許容できるほどにはモノは安くない、逆に言うと、依然としてモノは高いと感じている。

    2.家電や車等も昔のように次々と買い替える程、劇的に魅力が向上している訳ではない。手持ちの商品を長く使い続けることに消費者は支障を感じていない。

    3.現在の消費以上に将来に備えた貯蓄が必要とされている。子供の進学や老後の不安などから、とにかく貯蓄が必要という現実がある。

    ◆この状況で消費税率を引き上げた場合、1と2の問題に関してはマイナスの効果が考えられます。消費者の財布はますます固くなる可能性が高い。ただし、増税による税収増の分が社会保障制度の充実や安定に寄与し、また財政破綻を予防することで将来の国民負担の急激な上昇を抑えられるならば、その点ではプラスの効果が考えられます。

    ◆増税による財政の安定や社会保障制度の充実は社会の安定にも経済の成長にも、長期的にはプラスに働くと筆者は考えます。ただし、短期的には経済に悪影響を与えるから、増税の手法は十分な検討が必要です。その意味で、消費税だけでなく所得税など他の税も含めた総合的な税制改革と低所得者対策等が必要と主張しました。

    ◆結果としては消費税増税が先行し、本格的な社会保障制度改革は社会保障国民会議でようやく議論が始まったばかりです。総合的な税制改革としては、消費税増税に伴う低所得者対策や高所得者にもう一段の負担を求めるなどの改革が残されている訳ですが、これは衆院選後ということになります。この状態で選挙戦に入った訳ですから、民主党の政権運営は全くお粗末だと感じます。

    ◆その衆院選後の税制改革の展望を見ると、先述の通り自民党は消費税増税の凍結を検討し、公明党は軽減税率の導入による低所得者対策、民主党は所得税・相続税の改革と給付等による低所得者対策を記載しています。

    ◆消費税を増税しても景気が落ち込んで税収の総額が減るようでは増税の効果はゼロです。その意味で自民党の消費税増税凍結は理解できます。しかし、今の税制のままでよいと単純化もできません。財政状況を考えると、増税そのものはやはり必要であり、問題は経済への悪影響を最大限抑制することだと考えます。

    ◆筆者はそのために余裕のある高所得者への増税や低所得者対策の組み合わせが必要と考えています。同時に、貧富の格差をなんらかの形で是正すべきという観点からも必要と考えています。安倍総裁の発言は「凍結」であり、経済状態が向上すれば凍結は解除され、予定通り消費税は増税されるのですが、その際、高所得者への課税や低所得者対策は不要なのでしょうか?

    ◆従来低所得者への課税は緩すぎた、昔は格差が小さすぎた、努力した者はもっと報われるべきという視点ならば、低所得者への課税強化となる消費税増税も妥当でしょう。この点は議論が尽きない分野ですが、公約に高所得者への課税等が記載されていないということは、その背景に、上記の視点が含まれていると感じざるを得ません。富の再分配を弱める方向と考えられます。

    ◆では、公明党の主張に沿い、低所得者対策として軽減税率を導入すべきでしょうか?これは政治・行政改革を進める視点から賛同できません。得点品目のみ税率を引き下げるとすれば、税率引き下げを求める業界と政治の不適切な接触が増す危険性があります。小売業界や課税する税務署等の公共機関の手間を考えれば行政に、日本経済全体に非効率を与えていきます。

    ◆80年代のイギリスで始まった行政改革は、行政に経営学の視点を取り入れ、行政の効率化を目指そうとするものでした。その視点に立てば、軽減税率を導入して行政に余計な仕事を加えるべきではないと考えます。高所得者との公平性を考えるならば、高所得者にもメリットとなる軽減税率より所得税の累進課税強化の方が適切です。

    ◆前回衆院選の民主党マニフェストの柱は「控除から手当へ」でした。日本未来の党が子ども手当の充実などを掲げていますが、重要なことはこの柱が継続されているかです。子ども手当はあくまでも枝葉の問題に過ぎません。にもかかわらず、手当全体がバラマキであるように批判され、それを民主党の一部の代議士も認めてしまっており、極めて残念です。

    ◆「控除から手当へ」切り替えることは二つのメリットがあります。従来は控除制度と児童手当など手当制度が混在していた訳ですが、控除を極力削減し、手当にシフトしていけば、少なくとも税制はシンプルになります。一方で、手当制度を充実させても、細分化している制度を統合できれば行政への負荷は抑えられる。行政改革の視点から、この政策にはメリットが考えられます。

    ◆同時に、控除は税を納められる人のみを対象にした対策ですが、手当になれば低所得者をあまねく支援でき、貧富の格差の是正に役立てることもできます。これに高所得者への課税を加えることで、経済活動の成果の分配方法を正し、社会保障制度の充実によって将来不安を払しょくできれば、消費拡大の土壌を整えることができるかもしれません。

    ◆民主党の理念は本来そこにあったはずなのですが、残念ながらその体系立ては弱いようです(そういった説明もしていません)。政策の完成像・全体像が弱いまま民主党はただ消費税増税の維持を唱え、日本維新の会は増税を否定しないものの地方税化、自民党は経済状態によって凍結、公明党は軽減税率、その他の政党は増税反対と、争点は消費税に偏りつつあります。

    ◆問題は税制全体であり、税制の結果の富の再分配の仕組みにあるはずです。議論が浅く、弱いのではないかと考えます。

    ※個人的にはみんなの党の「社会保険料の取りっぱくれを正せば増税は不要」という声に関心を持ちますが、民主党の財源捻出の失敗にこりており、本当にそこに埋蔵金があるのか、もっと説明が欲しい所です。

    ※なぜ、民・自・公は消費税改革ができたのか、という視点で見るべきかもしれません。消費税だけなら合意が出来るが、「控除から手当へ」や高所得者・低所得者対策については、そもそも民主と自公では合意不能だったのかもしれません。その意味で、今回の選挙は民主と自公が合意できなかった分野を、有権者の選択に委ねる選挙とも言えそうです。



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    2012.12.05 Wed  - 政策 -   コメント 0件

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