◆先日投開票が行われたアメリカ大統領選は「史上最低の大統領選」と評されました。理由は簡単で双方の誹謗中傷CMが氾濫し、政策論争が霞んでしまったことです。次の4年間アメリカをどのように導くのか、指導者としての資質を見たいのに双方が双方を貶め合い、短所ばかりが目に付く選挙戦となったため、米国民は「史上最低」と嘆いた訳です。

    ◆このエピソードは大変共感できます。日本もまた、各党の短所ばかりが目に付く選挙戦になりつつあります。もっとも、これは今回の総選挙に限らず、前回の衆院選にもいえることかもしれません。前回の衆院選では民主党のマニフェストに注目が集まった政策選挙という側面と、自民党ではダメだという懲罰的な側面が入り乱れていたようにも思えるからです。

    ◆今回の選挙でも、各党の要人の舌戦は次第に醜さを増しています。自民党の安倍総裁の金融緩和・積極財政政策を「財政再建に逆行する」と民主党は批判します。自民党は「財政赤字を膨らませた民主党には言われたくない」と応じる。財政再建か上げ潮かが議論の核心であるはずなのに、政策的な議論に発展せず、「民主党はダメだ」と強調しているだけです。

    ◆民主党も「自民党は世襲議員ばかりだ」と批判しています。しかし、世襲候補者が有権者に選ばれるのですから、本来は自民党の責任ではありません。問題は世襲候補者が立候補しやすい環境にあるはずです。費用のかさむ選挙制度が世襲候補者を有利にする原因の一つなのですが、本質的な問題提起より、「いかに自民党が貴族化しているか」をアピールしたいだけでしょう。

    ◆改めて記載したいと考えていますが、第3極の結集騒ぎに至っては問題外です。選挙は政策を選び、政策を実行できる能力を見抜く作業です。「大同」という言葉は都合のよい、国民受けを狙った表現としか見えません。一方の既成政党もただ「野合」と批判するだけでは説得力不足です。野合政党に勝る政策実行力が本当に既成政党にあるのか、そのアピールこそが重要です。

    ◆そもそも政治課題は選挙の度にリセットされる訳ではありません。前回選挙で争点となった問題は今もやはり課題であり、これからも対応が求められるはずです。野田首相のサプライズ解散以来、今始まったかのように、次々と新規政策が掲げられます。新聞もテレビも騒がしい限りです。しかし、それらはいずれも選挙のために、相手との差別化を図るものばかりです。

    ◆民主党の最近の関心事は専ら脱原発、TPP推進、世襲批判です。加えて、安倍氏の金融緩和政策を日銀と歩調を合わせて批判しています。これらはいずれも「対自民党」を意識してのものでしょう。民主党が政策選挙を意識するならば、本来はマニフェストの総括と今後の課題の整理、それらを踏まえた今後の政策提起こそが必要です。

    ◆前回衆院選時のマニフェストの理念は社会保障政策の刷新と財政構造の改革にあったはずです。「控除から手当へ」という理念の下で、子ども手当の創設や高校授業料無償化を手がけました。その財源を財政構造の改革(ムダの削減)で対応しようとしたはずです。この試みは完了したのか、それとも継続するのか、軌道修正するのか、その説明が欠落しています。

    ◆ムダの削減によって社会保障を充実させるという目標は今の所達成していません。問題は増税してでも社会保障制度改革を優先させるのか、それともムダが削減できない以上、社会保障制度の充実は放棄するかということでした。民主党は増税を決めましたが、増税後の社会保障制度改革は道半ばです。最低保障年金、児童手当・幼保一元化など子育て支援策は関心外でしょうか?

    ◆自民党・公明党もただの野党ではありません。3党合意に基づき、消費税増税を決定した当事者です。その趣旨は財政の健全化や社会保障財源の確保にあったはずです。しかし、安倍氏の今の関心は国土強靭化です。しかも、その財源を日銀による国債引き受けに求めるという。経済再生は重要ですが、この政策は直近3年間の自民党の振る舞いを無視し過ぎています。

    ◆日銀が国債を引き受けたとしても借金の相手が日銀になるだけで、国債発行残高は間違いなく増えるのです。世論調査では消費税増税やむなしという声も少なくはありませんでしたが、賛同の趣旨の多くは財政再建と社会保障にあったはずです。その社会保障制度改革について聞こえてくる声は生活保護支給額のカットです。政策の是非はともかく、増税するのに支出はカット?

    ◆公明党も増税法案に賛成票を投じながら、選挙になって軽減税率(一部の品目の消費税率を引き下げること)導入を掲げています。これは卑怯ですし、無責任です。軽減税率を導入すれば消費税収は思うように増えなくなります。その減収分はどうするのか。他の増税で対応するのか、かつての民主党のように事業仕分けによるムダ削減に頼るのか、全く意味不明です。

    ◆自民・公明とも、これも「対民主党」色が強すぎます。民主党との差別化のために、この3年間、自分たちが関与した政策の趣旨、国民への説明内容を忘れたかのような姿勢に見えます。これから国民会議を設置し、社会保障制度改革を検討するのでしょう。この継続課題への関心は民・自・公3党ともに低い。これはこの3年間の政策遂行者としての責任感を欠く行為です。

    ◆既成政党・新党を問わず、これまでの政治課題の総括がまず必要です。政治課題を整理し、優先順位を付け、優先度の高い問題に対して各党がどのような政策を講じようとしているか、その政策が妥当か、本当に実現可能か、実行する意志と能力があるか、その競い合いを行わなければ、有権者は「ダメなもの争い」の中で「マシなもの」を選ぶという行動しかとれなくなります。

    ◆日本の衆院選を史上最低の選挙にしないためには、問題を正面から取り上げ、お互いにその対応策の是非を議論すべきです。相手の問題ではなく国全体の問題を、勝てる問題に特化せず議論が分かれる難問を取り上げるべきです。財政再建と社会保障制度の充実、脱原発と経済成長や温暖化対策といった矛盾した課題は日本に限らず世界的な難題であり、議論は尽きないはずです。

    ◆報道機関も個別の政治現象、短期的な政策課題より、4年後の日本像を検討するよう大局的な政策分析が必要です。アメリカが何故史上最低の選挙と評したか。その意味をもっと理解すべきです。差別化や相手の評判の落し合いに終始する選挙戦は「史上最低の選挙」への道です。報道機関の使命は政治のチェックです。意義の乏しい選挙戦を防ぐことが求められると考えます。


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    2012.11.22 Thu  - 政治 -   コメント 0件

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