◆先日、野田首相は国連総会で演説を行い、国際法に則った領土問題の解決を訴えました。中国・韓国の国名は具体的に出さずに、演説を行い、相手国への配慮をにじませたと報道されています。一方、中国は明確に日本を名指しして、尖閣諸島をめぐる日本の対応を批判しました。これに日本は早速反論しましたが、なんともフラストレーションの蓄積される展開です。

    ◆ところで、国連総会による各国首脳の演説とは一体何なのでしょう。日中韓三国が領土や歴史問題で舌戦を繰り広げましたが、このバトルは、国連総会の演説の本来の趣旨に沿うのでしょうか?

    ◆現在、国際社会の注目はイスラム教の預言者ムハンマドを侮辱したとされる動画の公開に伴う、イスラムデモの問題に集まっています。特に、動画を問題視し、無制限な表現の自由を否定的に見るイスラム圏と、イスラム教への侮辱は許さないものの、表現の自由までは規制できないとする西欧世界の価値観の対立は深刻です。国連総会ではこの点に関する演説が多く行われました。

    ◆本日の朝日新聞報道では、オバマ大統領は「憎悪の言説に対する最も強い武器は抑圧ではなく、偏狭と侮辱にさらなる抗議の声を上げることだ」と訴えたとのことです。「抑圧ではなく」という文言からエジプトのムルシ大統領らが訴えた表現の自由への規制には反対の姿勢を示しています。

    ◆日本は先日の反日デモで日系企業の工場・商店が襲撃され、さらに以前には中国大使の公用車の国旗が奪われるという事件も発生しました。これらの暴力行為に対し、中国国内では「愛国無罪」として許容する意見もありましたが、さすがに中国政府もこの動きには抑制をかけています。義憤は理解したが、これ以上のデモは容認しないとのことで、デモへの規制を行っています。

    ◆オバマ大統領の演説はイスラム社会に向けられたものですが、あえて、これを中国政府の対応に照らし合わすと、どうなるのでしょう?オバマ大統領は「抑圧」には反対の姿勢です。「憎悪の言説に対する最も強い武器」は「さらなる抗議」とのことです。そもそも、民主主義社会に置いてデモは抑制されるべき行為ではありません。政府に民意をとどける最も直接的な手段です。

    ◆中国政府はそのデモを規制しています。問題は暴力であって、デモではないのです。西欧世界の批判は専ら暴力に向けられています。イスラム社会は暴力を含む激しいデモを抑制するために、表現の自由を規制すべきとしたのに対し、西欧世界は、表現の自由を守りつつ、さらなる抗議(デモの継続)で、偏狭と侮辱に立ち向かうよう主張しているのです。

    ◆この議論のレベルは日中韓の応酬に比べて、一段次元が高いと筆者は考えます。第三国が領土問題でどちらか一方に肩入れすることは考えられません。日本も南沙諸島問題で東南アジアの味方をしたり、フォークランド諸島の領有権を巡って、イギリスの肩を持ったりはしません。同じように他国が積極的に日本を支持してくれる「当て」はないのです。

    ◆日本も中国国内のデモを積極的に認めるべきではないのでしょうか?外交は政府間で行われますが、いずれの政府も民意を無視して外交を進めることはできません。政府はあくまでも代理人であり、相手は中国の国民です。中国の民意を無視した要求をつきつけても、中国政府がそれを承諾するはずがない。

    ※中国は権威主義的な国ですから、政府の利益になるならば、民意を抑圧してでも承諾する可能性がありますが、民主主義国家ならばなおさら承諾しません。

    ◆むしろ、中国の民意の発露であるデモを重く受け止めることとし、暴力行為だけを批判すべきです。「尖閣諸島は中国領」とする中国の民意は、確かに日本の主張とは異なります。しかし、デモを行うことは中国国民の権利です。暴行・略奪・破壊さえないのならば、デモに何百万人が参加し、何百日続き、何百都市で行われても、その民意を日本政府も受け止めるべきです。

    ◆中国政府に対しては、法治国家として暴力行為への取り締まりを強く求め、一方でデモを抑圧する行為は民主主義の理念に反するとして、平和的なデモの継続を求めてもよいかもしれません?領土問題の正統性については支持を得られなくとも、民主主義の理念については国際社会の、少なくとも価値観を共有できる民主主義国家の支持を得られるのではないでしょうか?

    ◆先日、ニューヨーク・タイムズは社説で中国政府に同情する、として、尖閣諸島の領有権は中国にあるとする見方を示しました。このような海外の声は、日本の孤立感を煽りかねないものですが、世界中が中国の味方をしている訳ではありません。

    ◆フランスの有力紙は「中国に対抗できる国は日本のみだ」とする見方を示したと報道されました。ドイツでは「中国の行為はかつてのヨーロッパによる帝国主義的な活動に似ており、我々は今日、それは失敗だったと総括している」と報じられています。

    ◆それぞれ一メディアの主張であって国を代表した意見でありませんが、いずれもお国柄を感じる意見です。フランスは冷戦期、米ソ二大国が世界を分割する国際秩序に反発を続け、第三極としてEUの建設を主導した国です。おそらく今後米中の二大国が国際秩序を形成することにも異議があるのでしょう。世界は多極化すべきと考え、その一角に日本を見ているのかもしれません。

    ◆ドイツは帝国主義的な活動を否定しましたが、そもそもドイツは植民地を多数保有していた訳ではなく、帝国主義国家としてはむしろ落第生です(日本は第一次世界大戦後、ドイツから中国山東省の利権を奪っています)。だからこそ、「それは失敗だった」という評価ができます。イギリスやフランスでは自国の歴史を否定することになるので、このような主張は出ないでしょう。

    ◆アメリカの一社説も、執筆した記者の意図がどの程度純粋かは測りかねるものの、その社説を支持する人の中には、日中の対立に米国が巻き込まれ、米中の対立に向かうことを危惧している人がいるかもしれません。中国の目線もすでに日本にはなく、むしろアメリカの日本への影響力を削ぐ方向に向かっているかもしれません。米中の静かな冷戦が始まっているとも考えられます。

    ◆尖閣諸島という、広い世界地図の小さな「点」に、日本はとらわれ過ぎではないでしょうか。帝国主義の総括、あるいは国際秩序の未来像という時間軸の問題や、世界地図がどのような勢力圏に分割されつつあるかという広い視野を持てば、領有権の帰趨という狭い概念の演説にはならないと筆者は考えます。

    ◆演説の場は国連総会です。国際社会の将来像について各国が意見を表明していくことが「あるべき姿」です。「領土問題の国際法に則った解決」も一つの提案ではありますが、もっと大きな、普遍的な価値観を提示し、そこで味方を増やすことが「外交戦略」だと筆者は考えます。中国のウィークポイントは「軍事的な脅威」「人権」「民主主義」ですから、そこが勝負所でしょう。

    ※反ファシスト戦争の成果は日本の民主化、平和主義国家化であり、その逆を走る中国に、その成果を語る資格は本来薄いのです。

    ◆本日の朝日新聞報道は、イスラムの問題について「野田首相は言及しなかった」として締め括っています。国連の常任理事国を目指そうという国が、自国の問題で手一杯で、国際情勢に無頓着というのはいかがなものかと考えます。中国も韓国も褒められた演説はしていませんが、日本が同次元で戦っている所に、日本の器の小ささを露呈しているようで情けなく感じます。


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    2012.10.05 Fri  - 外交 -   コメント 0件

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    2012.10.27 Sat l まっとめBLOG速報