◆今年の夏ドラマはフジテレビの火曜9時「息もできない夏」を見ていました(ネタばれにご注意)。筆者は女優の武井咲さんをよく知らなかったのですが、透明感のある演技のおかげで、重いテーマのドラマであるにもかかわらず、どこか涼しげな印象を残すドラマになったように思います。すっかりベテランが板に付いた江口洋介さんの抑制した演技もドラマを引き立てていました。

    ◆さて、本ドラマのテーマは「無戸籍児(無戸籍者)」です。民法772条の規定により、離婚後300日以内に生まれた子は離婚した前の夫の子として戸籍登録されてしまう問題が根底にあります。このような規定の根拠は、基本的には離婚後300日以内の誕生である場合、離婚前の夫の子と推定される、もしくは現在の夫の子かの判別ができない、という点にあるようです。

    ◆武井咲さんが演じた女性は、母親がドメスティックバイオレンスを受けて離婚し、次の再婚相手と結婚後に生まれたものの、上記の民法の規定にひっかかり、母親は前夫に所在が発覚することを恐れ、出生届を提出しなかった、という設定となっています。主人公は正社員として就職する段階になって無戸籍であることが判明し・・・「息もできない夏」が幕を開けるという展開です。

    ◆ドラマは、主人公は誰の子なのか、という問題に収斂していきます。自分は父と思っていた人物の子ではなく、母に暴力を振るった前の夫の子なのかどうか、という問題がドラマの最終回に向けて核になります。

    ◆一方で、無戸籍状態からの脱却のためには必ずしも誰の子かは重要ではないようです。法に定められたルートを通り、一度前の夫(母親に暴力を振るった男)の戸籍に入り、その後、しかるべき手続きをとれば、父親と思っていた母の再婚相手の戸籍に移動することができます。これによって主人公は姓を改める必要なく、戸籍を取得することができます。

    ◆しかし、そもそも民法のこのような規定は本当に必要なのでしょうか?ドラマで苦悩する武井咲さんを見たため、余計にそのような問題意識を持ちます。

    ◆離婚後300日が経過していないとしても、再婚相手の子であることが遺伝的に確認できるならば、前の夫の子として戸籍登録を行う必要はないと考えます。現在の夫であり血縁的な父親の子であればよいはずです。また、仮に前の夫の子であるとしても、新しい夫が父親として子供を育てていく意思があるならば、制度によって前の夫の子と規定してしまう必要はないと考えます。

    ◆男性の側からすれば、離婚することで夫の地位を失っても、子供に対しては父親でありたい、という要求はあるかもしれません。しかし、その権利を政府が法的に保障する必要がるのでしょうか。家族形成に政府が不必要に立ち入り過ぎではないかと考えます。離婚の原因を踏まえ、必要ならば司法の判断を加えながら、個々の事例に柔軟に対応できるようにすればよいと考えます。

    ◆昨日の朝日新聞では、妊娠中に母親の血液中に含まれる胎児のDNAを調べ、父親を特定する出生前診断がビジネス化していることを報じています。これまでの検査方法では流産の可能性もあったのですが、手軽な検査方法で99%以上の確率で親子関係を特定できるそうです。しかし、日本産科婦人科学会は倫理的な問題があるとして、このビジネスに否定的です。

    ◆「ビジネス」という表現自体、すでに倫理的問題を含んでいるように受け止められますが、このビジネスの問題は、妊娠9週目の父親の判定ができるため、安易な中絶判断に利用されかねない、というものです。ビジネスの依頼者も浮気相手の子供かを確認したい、父親と名指しされた男性が疑問を持った等の理由で利用するケースが多いようです。

    ◆ドラマでも、最終的に武井咲さん演じる主人公は、母親に暴力を振るった前の夫の子であることが判明しました。仮に、出生前診断により胎児が前の夫の子であると判明していたとしたら、木村佳乃さん演じる母親は出産したでしょうか?武井咲さん演じる主人公が、そもそも誕生していただろうか、という問題はあります。

    ◆しかし、一方で上記の離婚後300日問題のように法的な障害によって、無戸籍者が誕生してしまうという悪例もあります。出生前診断に中絶等の負の側面があるからといって、上記の問題解決につながる可能性には触れずに、医学界が一方的に否定するというのは、どうも知恵が足りないように感じます。

    ◆私の妻の出産時、病院は中絶不可能な時期に入るまで子供の性別を教えてくれませんでした。中絶可能な時期に性別を教えると、例えば男の子ばかり生まれてきた家庭で、胎児が男児と分かった場合に中絶を希望する可能性があるから、とのことです。この事例を応用するならば、中絶を防ぎつつ、出生前診断を有効活用する方法はあるといえます。

    ◆まず、妊娠中の子供が新しい夫の子であるならば、離婚後300日以内の誕生であっても、新しい夫の戸籍に入ればよいはずです。そのためには安全な出生前診断は有益な判断基準となります。その上で、前の夫の子である場合の中絶などの事態を防ぐためには、中絶不可能な時期に入ってから出生前診断を行えるようにすればよいのではないでしょうか?

    ◆出生前診断の結果、ドラマのような事例、すなわち前の夫の子と判定され、かつ中絶はすでに不可能な時期に達していた場合にどうするか、その方法さえ確立できれば、民法は改正してもよいのではないでしょうか。その方法は、先述の通り、法で一律に定めるのではなく、家裁の判断に委ねるなり、対応に柔軟性を持たせることで足りると考えます。

    ◆医学の進歩や女性・子供の権利保護といった理念を踏まえ、法制度の見直しが必要と筆者は考えます。医学界も一部の倫理的な問題にばかり目を向けず、新しい医療技術を有効に活用できる他の問題にも目を向けながら、もう少し柔軟に知恵をしぼることはできないだろうか、と筆者は感じます。



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    2012.09.25 Tue  - 社会 -   コメント 0件

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