◆先日、シャープは業績の悪化に伴い、社員の賃金カットを発表しました。お決まりのパターンではありますが、役員程、賃金の削減幅は大きく、次に管理職、そして一般の社員と、一定の削減率を定めて賃金カットを行うようです。しかし、この賃金カットについて、どうも世間が常に問題視している「努力が報われる社会」の原則に反しているのではないかと感じます。

    ◆結論を先に申し上げると、「一律」の賃金カットはむしろ不平等と感じています。一般の社員でも評価の高い社員もいれば低い社員もいます。業績が悪化しているとしても、配属されている部署によっては、むしろ現在の状態になんとか維持している(これ以上の悪化を水際で食い止めている)社員もいるでしょうし、部署のパフォーマンスを高めている管理職もいるでしょう。

    ◆努力が報われる社会とは、競争の勝者がより高い評価を受け、より高い報酬を得られるシステムを備えていることでしょう。「成果主義」も少し古いテーマながら、社員の意欲喚起のために導入された考え方です。業績が悪化した際に、そのダメージを全社員が公平に分かち合うことは日本的で一見平等に見えますが、筆者は極めて疑問です。「一億総玉砕」思考に過ぎると考えます。

    ◆筆者は賃金レベルでの格差の拡大には原則として賛成しています。どのような賃金体系を採用するかは企業次第ですが、企業内でも、あるいは同業他社間、大企業と中小企業の間でも、賃金に開きがあることに違和感を覚えません。企業全体の業績、個人の収益への貢献度によって賃金に格差が生まれることは必然だと考えています。

    ◆むしろ、賃金に現れない格差こそが問題です。

    ◆例えば、大企業では労務管理がシステム化され、残業代が正確に計算されるとしましょう。一方、中小企業ではサービス残業が横行しているとします。賃金が労働時間に基づき算定されることは基本ですし、労働者の権利です。この権利が企業の規模によって平等に得られないならば、これは問題ですし、是正すべき格差です。

    ◆休暇制度も同様です。大企業ほど、休暇制度が手厚く、また取得しやすい、中小企業が異なるということであれば、是正の必要があります。正規雇用・非正規雇用、男女間など、様々な労働者の立場の違いで、様々な格差が生じていれば、これも是正されなければなりません。

    ◆しかし、労働時間や成果で賃金に格差が生じることは当然ですし、むしろ格差の発生こそが平等でしょう。誰でも使用できる時間は24時間と限られていますし、用いる労働力のクオリティーは個々の労働者の努力によっていかようにも成長させられます。個々の能力が最大限発揮され、また成長を促すために、賃金格差が効力を発揮するならば、格差は正当化されるべきです。

    ◆「成果主義」は実際には機能せず、見直しを行っている企業が多くあると指摘されています。確かに複雑な賃金体系は労務管理を非効率にしますし、社員の間で不公平感を高め過ぎると逆に社員のモチベーションの維持が難しいのかもしれません。労働組合が組合員同士の団結を損なう競争原理に否定的なのかもしれません。

    ◆ですが、シャープの事例に戻ると、努力している社員、実際に業績に貢献している社員は、なぜ自分まで賃金が下がるのか、と疑問を感じないのでしょうか?「皆公平な処遇だから仕方がない」と思う人の方が多いのでしょうか。同じ一般社員でも若手・中堅社員と高齢社員では、年功序列により後者の方が賃金は高いケースが多く見られますが、それが妥当かも筆者は疑問です。

    ◆「格差社会」の問題の核心は、政治による富の再分配が機能していないことです。賃金格差を測定する上でジニ係数という指標が用いられますが、格差社会の問題点を指摘する研究では、日本の場合、政治による富の再分配以前のジニ係数と、再分配後のジニ係数の変化の度合いが他国より小さいという指摘があります。

    ◆政府は主に税制と社会保障制度によって格差の是正を行います。筆者は「格差社会」に否定的ですが、これは先述の通り、賃金格差を肯定した上で、政府による積極的な格差是正が望ましいと考えるためです。企業は市場において市場原理で活動します。一方、政府は原則として、市場の外で、社会的公正という別の原理で活動する必要があります。

    ◆賃金という形で格差が数値として明確化される程、税制などでの格差是正は行いやすい。従って、休暇制度や解雇規制など、数値化されない、発見しにくい格差には、筆者は否定的です。企業は成果に応じて賃金を提供し、その上で、政府は貧富の格差を是正する。もちろん、どの程度是正するかは非常に難しい問題ですが、企業と政府の役割分担ははっきりさせるべきです。

    ◆日本では、企業は従業員間の公平や同業他社間での賃金差に敏感すぎるのではないでしょうか。逆に「努力した人が報われるべきだ」という論理で、政府が格差是正の役割を放棄しているならば、政治と経済の役割分担はあべこべだと考えます。あるいは企業経営者は自分の企業内ではもめごとを避け、その上で、政治に競争原理を煽ってもらいたいのではないか、と疑います。

    ◆「悪平等」という言葉を耳にしますが、シャープのニュースを聞いた際に、平等な賃金カットが本当に平等か、これこそ「悪平等」ではないかと筆者は疑問を感じました。「運動会での手をつないでゴール」が批判されましたが、まさに社員に「手をつないで皆で泥をかぶる」経営だと考えます。企業が扱うべき「平等」と政治の扱うべき「平等」は異なる、と筆者は考えます。




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    2012.09.21 Fri  - 経済 -   コメント 0件

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