◆昨今の外交問題に関する報道を聞くに連れ、何故こんなことになるのか、という怒りを禁じ得ません。極めて危機感を覚えるのは日本政府・有力政治家の論理性・戦略性の欠落です。議論を盛んにするのは結構ですが、どうやって議論を終えるのか、その能力が今の政治家に備わっていると思っているなら、過信・傲慢以外の何物でもない、と感じます。

    ◆尖閣諸島問題では、中国政府の船舶が領海を侵犯したとのことです。海上保安庁の巡視船は領海外への退去を警告し、相手方は「尖閣諸島は中国固有の領土であり、領海のパトロール中」として応じないとのことです。自分が海上保安官になったとして、この状況でどうやって相手方を領海外へ追い出すのか、そこは有効な海上保安庁特有の専門的方法があるのでしょうか?

    ◆しかし、このような中国の示威的行動よりも、中国政府の外交の方がはるかにしたたかです。朝日新聞の報道によれば、中国は、尖閣諸島は歴史的に中国固有の領土であり、戦前日本(先方の主張によれば日本のファシズム)の侵略過程で奪われた、という論法を展開し、パプアニューギニアの首相から友好的な回答を得たとのことです。

    ◆どうも聞いたことのある主張です。この論法は韓国の竹島領有権主張の根拠とほぼ同じです。すなわち、竹島も尖閣諸島も歴史的にはそれぞれ韓国・中国の領土だが、日本が明治維新以降、近代化を進め、両国よりも軍事的優位を得てから占領された、という筋立てです。

    ◆歴史を紐解くと、そもそも主権国家という概念がアジアに取り入れられ、いち早く西洋式の国際常識に適応したのは日本です。また、主権を確定させるためには、相応の軍事力が必要であることを認識し、富国強兵を進めたのも日本です。主権を確定させた時期は、確かに中国・韓国とも植民地化の危機に瀕していた時期であり、当時の状況に関する先方の主張は一理あります。

    ◆問題を「日本が軍事的圧力で領有化を進めた」ことにしぼられてしまうと、実は、本当にその通りなので、この議論にはなかなか抗弁できません。「当時、中国も韓国も抗議しなかった」といくら主張しても、「当時の状況では抗議できなかったのだ」と言い返されると、どうしようもない。「お気の毒でしたね」と同情した所で、中国も韓国も納得する訳がありません。

    ◆竹島問題における日本の反論は、領有の時期や集団ではなく、「歴史的にはどちらの領土なのか?」という点に集中しています。古来、日本の領土ならば、その主権確定の時期が、近代日本が勃興し、前近代的な韓国が没落している時期であっても、あるいは、その手段が軍事的圧力を背景としたものだとしても、当時の日本の領有(島根県への編入)自体の正統性は保持できます。

    ※手段はともかく、領有自体は間違いではなかった、今も日本の領土だ、という主張が成り立ちます。

    ◆上記の論理から、日本は韓国に対話のテーブルにつくよう求めています。この図式を尖閣諸島問題に置き換えるとどうなるのか?韓国は竹島を実効支配し、「領土問題はない」と主張しています。日本も尖閣諸島を実効支配し、「領土問題はない」と主張している。竹島問題で韓国が対話のテーブルにつくべきならば、尖閣諸島問題で日本も対話のテーブルにつくべきなのでしょうか?

    ◆この点、中国外交は巧妙です。韓国は一方的な武力行使で竹島を実効支配しましたから、正統制の根拠は希薄です。日本に奪われたものを取り返した、と主張する以外にない。対する日本は、竹島問題について領有当時の経緯と現代の領有権の問題を切り離し、歴史的にどちらの領土かという議論に集中する傍ら、韓国の一方的な武力行使の不当性を主張しています。

    ◆中国の外交は日本を自己矛盾に追い込むことに狙いがあるように考えます。日本が韓国の不当支配を批判し、領有権の歴史的正当性に関する議論を求めるならば、日本も尖閣諸島問題でその議論に応じよ。その議論の間は、領有権がどちらにあるのか明確ではないのだから、灯台の建設といった開発を控えることはもとより、国有化も問題外だ。という筋立てにつながっていきます。

    ◆逆に、領有権は歴史で決まるものでしょうか?歴史的にどの国に帰属した地域であるかは、実際の国際政治では余り問題ではありません。ドイツとフランスはアルザス・ロレーヌ地方を取り合い、最終的に第二次世界大戦の結果でフランスに帰属し、ドイツも認めました。また、ドイツは歴史的にプロイセンに帰属していた広大な領土を、同じく第二次大戦で失っています。

    ◆過去にさかのぼって領土の帰属を争うのではなく、ある一時期の領有が、最終決定となって主権が成立する、とすれば、歴史を逐一問わずとも、日本が明治維新後、尖閣諸島や竹島の領有権を確定させたことは、当時の軍事力の差に関係なく正当化できるかもしれません。「中国・韓国の近代化が遅かったからだ」と主張することもできるかもしれません。

    ◆しかし、主張の正当性を巡る議論にはまず終わりはありません。我慢しきれなくなったら武力行使だということにもなりかねない。いくら日本が領有権の正統性を訴えても、自国の正統性を訴える中国人・韓国人の家を一軒一軒訪ね歩いて説得し、納得させることは不可能です。

    ◆手続きが、国際法上合法でも、中国も韓国も、その国際法の成立や当時の国際秩序の樹立には全く参加していない。日本も後発帝国主義国として、先発していたイギリス・フランスを打倒すべく、彼らのアジアの植民地を奪いに行きました。近代化の遅い国ほど、既成の国際秩序に対抗心を持ちます。発展途上国が環境問題で先進国の主張を受け入れないことも同じ構図です。

    ◆竹島と尖閣諸島問題を両にらみすると、最悪のシナリオを想定して、必要な防衛力は整備すべきでしょうけれども、武力による領土問題の解決は日中韓三国の経済をいずれも不安定化させます。従って、対話による解決しかない。竹島で韓国を対話のテーブルにつかせたいならば、尖閣諸島問題で日本は対話に応じた方がよいのではないかと考えます。

    ◆日本は「領土問題はない」としていますが、どう理屈立てようとも、また、相手が一方的に騒いでいるだけだと主張しようとも、この尖閣諸島問題の現状を見ると、「領土問題はある」とする方が妥当ではないでしょうか。尖閣諸島問題での議論には応じるが、主権の歴史的正当性は引き続き訴える。真正面からの議論を避け、灯台の建設などに走っても、問題はこじれる一方です。

    ◆中国とは議論をする。その議論の過程では余計な刺激を与えないために、島の開発は凍結する。現政権のように、議論しない、開発もしない、では、納得しない日本国民も出ますし、中国国民も納得はしないでしょう。逆に、議論しない、開発する、では中国は収まりません。そのために防衛力の強化だ、ということになると、国家間の緊張はエスカレートする一方です。

    ◆過去の主権の確定過程を直ちに「侵略」とする主張は不当です。受け入れる必要はない。しかし、それも議論の場で反論していけばよいと考えます。いざという時に抜く刀は研いでおく一方で、刀を使わずに解決する手段を常に模索する。時間を徹底的に使い、議論の場でガス抜きしながら、お互いに日中両国の国民感情が融和することを待つのも一つの道ではないかと考えます。



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    2012.09.14 Fri  - 外交 -   コメント 0件

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