◆思った以上に長話になっていますが、本稿の執筆の動機は、最近書店で「AKB白熱論争」なる新書を立ち読みしたことに起因します。この論争は、何人かの評論家が集まって、特にデータ的な裏付けなしに、個々の主観に基づいて議論するという、興味のない人にとってはおそらくくだらないと感じるだろう内容です。

    ◆個々人の主観であることを前提に好きに議論すること自体は自由ですので、この新書も「そんな見方もあるか」程度に斜め読みしました。興味深い点は、やはり総選挙のくだりで、なぜこのタレントは順位を上げたのか、という議論が、これも特に客観的、実証的な分析なしに、個々の主観で延々と議論されています。

    ◆目を引いた点は「物語性」です。どの評論家の言だったかまでは覚えていませんし、興味がある方はぜひご自身でお読みになることをお勧めしますが、すなわち今年の総選挙のテーマは「世代交代」にあったというものでした(わざわざ書かなくても、ニュースもそのような報道を行っていましたが)。

    ◆上記の書籍同様、筆者もいわゆる「投票」をした消費者の行動を実証的に分析できません。あくまでも筆者の主観になりますが、ファンの投票行動は単純なタレントへの応援ではないと考えます。最終的には応援するために投票するのでしょうけれども、その応援に至る過程で、容姿やパフォーマンスといった「人物」が主たる決定要素ではないと考えます。

    ◆これは現実の政治においても同じと考えますが、有権者の投票行動は政治家個人への期待もあれば、利益誘導の結果でもあるでしょうし、政治家の人物像とは切り離した政策や所属政党への期待といった様々な要素があります。

    ◆AKB48の場合もおそらく同じで、これまでの活動で目立っていたという実績だけでなく、これから目立って欲しいという期待、タレントよりもAKB48はこうあって欲しいというグループへの期待もあるかもしれません。その中で、個々のタレントの魅力よりも、AKB48全体や個々のタレントの「物語性」に注目することは、目新しい話題ではないかもしれませんが、興味深い点です。

    ◆今年の総選挙では、これまで常に一位の最有力候補であった前田敦子さんがAKB48からの脱退を表明し、脱退の趣旨が「一定の人気を得たベテランの新たなステップ」にあったことから、前田敦子さんのような創業期のメンバー全員がAKB48に残留することの正統性を問われ、また年齢・世代的に若い後継者の「挑戦」という構図を形作ることになりました。

    ◆上記の新書では、総得票数の増加にもかかわらず、1位の大島優子さんが得票数を減らしたことについて、世代交代への圧力を主因としています。また、5位の篠田麻里子さんが次世代メンバーの挑戦意欲を煽るメッセージを発し、大島さんは前田敦子さんの過去の業績を称え、次世代メンバーの飛躍に言及していることから、多くのタレントが世代交代を意識していたのでしょう。

    ◆昨年、3位だった柏木由紀さんが昨年5位の渡辺麻友さんに僅差で抜かれ、今年も3位という結果だった点については、次世代の渡辺麻友さんの「挑戦」「期待」という物語性に対し、柏木由紀さんは前田敦子さんの時代では有力閣僚でも次世代の立ち位置は不明確、という理由から説明できるとしています。よくこれだけ考えられるなと笑ってしまいますが、多少納得感があります。

    ◆こういった点を見ると、「株主総会」より「選挙」という言葉が、その仕組みがどちらに近いかは別として、適切だったと考えます。容姿やパフォーマンス(いわば消費者の満足度、株主にとっては配当?)がファンの支持に直結するのではなく、むしろ活動のスタンス(今後の政策)が非常に重要なウェイトを占めていると考えられます。

    ◆上記の書籍では、大島優子さんが勝利確定後の挨拶で前田敦子さんに触れたことを取り上げ、大島さんは前田敦子さんの有力な対抗馬であり、結局その位置から脱していないという若干失望の色を感じさせるコメントがなされています。しかし、この書籍がファンの投票行動において物語性を重視しているならば、実はこの評価は余り妥当ではないと考えます。

    ◆まず、大島優子さんの得票数の低下の原因は、前田敦子さんの不在により、CDの大量購入を行わなくとも大島さんが勝つというファンの予想があったものと考えます。これまではアンチ前田敦子さん票が上乗せされていたのかもしれませんが、大島さんが2位に圧倒的な得票差を付けた理由は前田さんの対抗馬というだけでは説明できないのではないでしょうか。

    ◆1位という結果について、大島優子さん固有の勝因を説明する必要があると考えます。先述の通り容姿やパフォーマンスだけではない、大島さん独自の物語性への検討が不足していると感じます。そこには、前田敦子さんの後継者としてのファンの認知があり、また本人に前田敦子さんの後を継ぐという物語性があるからこそ、依然として突出した人気を保持していると考えます。

    ◆AKB48を背負う、前田敦子さんの跡目を守る、という物語性を大島さんが持っている以上、勝利の確定後に前田敦子さんに言及することは、大島さんの物語性を維持する上で(本人にそのような計算はないでしょうけれども)必要不可欠だったと考えます。また、前田敦子さんについて言及する人物だからこそ1位だったとも考えられます。

    ◆先述の通り実証的な分析ではなく、あくまでも主観ですが、ファンの投票行動が活動のスタンス、すなわち政策の影響を受けやすいからこそ、物語性ではなく、古典的な「人物」で勝負する創業期のメンバーは順位を下げているのかもしれません。「人物」をめぐる競争ではバラエティ番組で人気を博した指原莉乃さんが創業メンバーをごぼう抜きしています。

    ※彼女には余り物語性を感じない。若いので世代交代なのかもしれませんが、納得感はありません。やはりキャラクターの勝利だと思います(主観ですが)。

    ◆AKB48の東京ドーム公演が、単なるライブではなく「夢」という物語で装飾されていることからも、AKB48のビジネスにおける成功は、実に多様な付加価値の提供で成立しているといえそうです。AKB48の全メンバー(200名位いるのでしょうか?)で東京ドーム公演を行うことが大々的に報じられる一方、タッキー&翼が二人で東京ドーム公演を行うことはニュースになりません。

    ◆どう考えてもジャニーズ事務所の二人のタレントで東京ドームを満席にする方が生産効率は高いのですが、ニュース性ではAKB48に軍配が上がります。ジャニーズ事務所が東京ドーム公演を興行と位置付ける一方で、AKB48は東京ドーム公演を壮大なCMと位置付けているのかもしれません。これがCDの販売実績の差を生み出しているかもしれません。

    ◆総選挙の2位の発表の際、大島優子さんと渡辺麻友さんの顔が交互にテレビに映し出されたのですが、その表情で勝負は決まっているようでした(2位が発表されれば、自動的に1位も確定する)。まさに横綱の顔でした。大島優子さんの勝因は、前田敦子さんの対抗馬としての成長だけでなく、様々な場面で、不動の後継者のイメージを創り上げたことにあると考えます。

    ◆大島優子さんの場合、昨年の総選挙でCDの大量購入批判を意識したメッセージを発しましたが、その妥当性は議論があるとしても、その意識は自分のタレント活動を超えて、AKB48全体を視野に入れているのでしょう。そのような視野を持つタレントが育たなければ、大島さん(あるいは大島さんに後を託した前田敦子さん)を超える、という物語は生まれないように感じます。

    ◆貴乃花(当時貴花田)が千代の富士を倒した勝負は相撲史に残る名シーンですが、これも単に若手が勝ったという意味ではなく、千代の富士から貴乃花に相撲界が託されたという物語性があるからこそ名場面です(負けた後の千代の富士の微笑は悔しいのか安心したのか、多様な解釈が可能で印象的です)。このような世代交代を象徴するような物語は来年以降なのでしょう。

    ◆明確なテーマもなくダラダラ書いてきましたが、最後に筆者が浮気中の松井玲奈さんについて。松井さんの意識が非常にSKE48志向であることは興味深い。AKB48の主要メンバーとしてテレビに出てくるのですが、どうも他のメンバーとは一線を画し、紅白出場やレコード大賞、東京ドーム公演で盛り上がっても、SKE48が同じ位置まで行けるかという視点を持ち続けています。

    ◆松井玲奈さんは総選挙では10位で、同じSKE48の松井珠理奈さんが9位でしたので「次点」だった訳ですが、松井珠理奈さんはまだ高校生で、新世代という物語性を強く持っていたことが理由かもしれません(SKE48への意識が低いという意味ではありません)。一方の松井玲奈さんはSKE48における大島優子さんのポジションを強め、それ故に支持が根強いのかもしれません。

    ※つまるところ、筆者は何かを背負っているんだ!という物語性に弱いのかもしれません。

    ◆タレント活動に物語性を付与して、そこを人気あるいは販売実績につなげていくという手法は、いずれ飽きられる可能性はあるとしても、ビジネスモデルとしては非常に巧妙です。AKBの総選挙は人気投票だろうといえば、外見はその通りですが、その人気投票がどのように成立しているかが重要です。投票行動に働く原理を無視すれば、政治家の選挙も人気投票でしかありません。



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    2012.09.06 Thu  - 文化 -   コメント 0件

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