◆将来のエネルギー政策について、政府が実施している討議型世論調査の結果、2030年の発電量に占める原発比率について、「0%」「15%」「20-25%」の三つの選択肢のなかで、「0%」の支持が最も多かった(47%)と報道されています。民主党は今後の選挙を意識し、原発比率「0%」の具体的な実現に向けたエネルギー政策の策定と公約化に動き出したとのことです。

    ◆この討議型世論調査ですが、政治も報道もどうも軽薄に扱いすぎではないかと考えます。

    ◆大抵の民主主義国家において、その国の民主主義制度は代議制の形態をとっています。国民は選挙を通じ、代議士を議会に派遣する。国民の政治参加は選挙における投票が主となっています(立候補する人もいれば、NPOや労働組合などでの活動を通じて、政治活動を行う方もいますが)。この代議制について、1990年代から問題点が指摘されています。

    ◆一つには、政策課題が複雑になり、有権者の意向を政治家、政党が吸収しきれないケースが増えてきています。人によっては、特定の政策課題では自民党の方針に賛成だが、別の課題では民主党というケースも考えられます。一つの党内でも政治家によって政策方針が異なり、投票した政治家を支持しても、その政治家の所属する政党が支持できない政策を採用することもあります。

    ◆また、代議制を前提としているために、自身の一票が政治に変化を与えないだろうという政治への不信、興味の低下、失望が社会に広がっています。代議制では、自身は政治に直接参加せず、代議士に政治活動を委ねる行為ですから、代議士への期待が概して低くなれば、投票率の低下、支持政党なしといった具体的な数値データとして国民の政治参加意欲の低下が見えてきます。

    ◆近年、ポピュリズム(大衆迎合主義)の拡大が危険視されています。一般的な国民は政治に関する正確で十分な情報を持ちませんし、多様な選択肢の中からベストな政策を抽出するという政治活動に必要な時間もありません。不正確・不十分な情報をもとに(時に政治家のカリスマ性などにひかれて)、短時間のうちに特定の政策を支持し、それが誤っている危険性がある。

    ◆ポピュリズムの危険性は政策の是非ではなく、政策決定過程にあります。正しい政治家が正しい政策を提示し、国民がそれを追認して、その政策が効果を発揮すれば、結果オーライかもしれませんが、常にそのシステムが成功する訳ではありません。政策が成功する可能性よりも、失敗するリスクに目を向け、事前にリスクを除去するために政策決定過程を整備する必要があります。

    ◆この問題を解決するために模索されている方法が、一つは一般市民の政治参加の機会を拡大すること、もう一つは一般市民に各政策の十分な情報を提供し、討議を通じて、政策の差異、メリット・デメリットなどを市民が把握した上で、政策評価を行うことです。「討議デモクラシー(熟議デモクラシー)」と呼ばれる民主主義の新しい形の模索です。

    ◆この手法はまだ研究段階で、制度化され、採用されている国はなく、海外では部分的、あるいは試験的に実施された例が見られる程度です。しかし、最も注目する必要があるのは、討議の後の政策への賛否ではなく、討議前と討議後の賛否の変化なのです。具体的には原発比率0%の支持が47%であったことが重要なのではなく、当初何%でそれが47%に変化した、という点です。

    ※今回の調査では「0%」「15%」「20-25%」の各案を討論会の参加者が、それぞれの案を11段階に分けて評価するため、各案の平均点の推移も注目する必要があります。

    ◆インターネット内で情報を検索した所、「3案のうち0%案を最も高く評価した人の割合は、1回目の調査で34%、2回目が42%、3回目が47%と次第に増えた。一方、15%案は1~2回目が18%で3回目が16%。20-25%案は1回目14%、2回目15%、3回目13%とほぼ横ばいだった」とありました。

    ◆討論会における討論を経ながら3回に分けて、支持率の調査を行ったということですが、上記の情報が正確である場合、原発比率0%への支持が34%から47%に増えたことが重要です。問題はなぜ13%増加したのかということです。それは代替エネルギーの開発の見通しに説得力を感じたのか、原発のデメリットを再認識したのか、その理由の分析が必要です。

    ◆一発勝負の世論調査ではなく「討議型」世論調査なのですから、調査結果が変わった要因である「討議」の内容が最も重要なのです。その討議内容が幅広く国民に共有されて、初めて一発勝負の世論調査よりも、熟慮を経た世論調査結果が期待できます。(例えば、討議を行った後で、小沢氏を支持するか世論調査を行えば、小沢氏支持は増えるかもしれません。減るかもしれません)

    ◆残念ながら政治も報道も、この討議内容に十分な関心が向けられていないのではないでしょうか。15%案や20-25%案への支持率が横ばいである理由も十分検討する必要があります。0%が難しいという考え方も根強い訳です。

    ◆0%が多数派だから、多数派の意向を優先するということであれば、それは「多数派が間違う可能性もある」という古典的な民主主義の欠点すら補えていません。まして、討議内容や討議後に支持政策を変えた人の意見などが十分に報道・考慮されずに政策決定が行われると、討論に参加していない一般国民は「初めから0%の結論ありきの議論では(茶番)」と見かねません。

    ◆国民の討議型世論調査に対する見方を歪める要素として、討議のルールに関する注意も欠けています。

    ◆代議制民主主義を懐疑的に見て、国民の政治参加の機会を増やそうとしても、全ての国民が討論に参加できる訳ではありませんから、一部の市民を無作為に抽出するしかありません。ということは抽出された市民が十分国民を代表できるか、という視点が必要です。原発立地地域の住民ばかり抽出されれば、必然的に脱原発政策を支持する可能性が高まるかもしれません。

    ◆電力を大量消費する都市部、そうではない農村部、原発立地地域の住民、原発から距離のある地域に暮らす住民、サラリーマン、自営業者などの職業、男女、世代などの比率・分布が重要な問題になります。

    ◆提供される情報も本当に十分で正確かが問題です。報道では0%案の実現可能性に関する記述が悲観的・消極的すぎるという脱原発派の意見もありますし、経団連のように3案全てが不可能という意見がありながら、経団連の意見は討論会では公表されていないなどの問題もあるようです。

    ◆討議型世論調査という試みはまだ始まったばかりといえばその通りですが、どうも基本的な理念への理解が不十分なまま、具体的運用法も甘く、従って今一つ盛り上がりに欠ける試みに終わりそうに筆者は感じているのですが、その通りの結果に終わるならば大変残念です。




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    2012.08.22 Wed  - 政治 -   コメント 0件

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