◆円高・株安が進んでいます。その原因はすでに報道され尽くしている通り、ギリシャの政局の混迷に伴うEU経済圏の不安定化にあります。筆者は先日の記事「デフレが本当に問題なのか?」において、円高の原因を考えるよりも、ドル安・ユーロ安について考える方がはるかに簡単と記載しました。以下、恥ずかしながら拙稿より引用です。


    「なぜ日本が?」という考え方は非常に謙虚な考え方です。世界経済という中心の周りを日本経済が回っているという「地動説」に従った視点です。しかし、「天動説」に立って、世界経済を見てみると見方は一変します。

    日本の超円高も、超円高の説明を試みるより、天動説に立って、ドル安、ユーロ安を論じる方がはるかに簡単です。ドル安、ユーロ安は、アメリカ、EUの実体経済への不安という明確な理由があります。


    ◆筆者が記載した「天動説」は、日本は何もせず、世界経済が日本の周りを回っている、という見方に基づくものです。日銀のインフレ目標設定は、この記事の記載より後のことです。すなわち日本自身も「動いた」のですが、やはり世界経済の巨大な流れの前では、その効果も減殺されてしまいます(日銀の金融緩和がなければ、もっと大変なことになっていたかもしれませんが)。

    ◆仮に、消費税増税法案が否決されたとしましょう。あるいは可決しても、次の総選挙で増税を進めた政党が大敗し、消費税増税を撤回するかもしれないという事態になったとしましょう。この場合、どのような現象が起こるのでしょうか?

    ◆ギリシャの事例に従えば、市場は日本の財政再建の道筋が混迷すると見て、現在ユーロ安が進行しているように、円安が進行するかもしれません。日本国債は「売り」の展開となり、債権安も発生するかもしれません。国債での運用に重点を置く大手金融機関の株が売られ、株安の展開となるかもしれませんが、円安は輸出企業の追い風となりますので、株の展開は不透明です。

    ◆この場合の円安は吉でしょうか、凶でしょうか。確かに円安は輸出産業にはメリットがありますが、原発の実質ゼロという現状ではエネルギー源となる原油や液化天然ガスの輸入が増えているため、必ずしも円安がよいとはいえません。

    ◆では、政府の主張通り、とにかく財政再建のために消費税増税に舵を切るべきでしょうか?

    ◆先日の記事「デフレが本当に問題なのか?」でも記載しましたが、日本では消費者物価指数の下落以上に、賃金が下落しています。モノ・サービスの価格以上に賃金が減るということは、感覚的には物価は上がったと考えてもおかしくはない状況です。しかし、最低限の生活費は削れないために、健康保険料や年金保険料の未納は増えています。生活保護受給世帯も過去最高です。

    ◆この状況下で消費税を増税すれば、最低限の支出はともかく、他の消費が冷え込むことは明らかだと考えます。住宅ローン、カーローンを組んでモノを買うという大型消費などは一層冷えるでしょう。企業は投資を控えていますし、消費減が予想される情勢では、さらに投資を渋るでしょう。金融機関の投資先不足もより深刻になります(その分、国債は売れるでしょうけれども)。

    ◆税収の増加のためには景気回復が非常に重要です。本日のニュースでは大手銀行はようやく法人税を納税するそうです。法人税制では、利益が出ても過去に損失が出ていた場合、一定期間その損失を補うために、法人税の納税を免除されます。そのため、大手銀行は過去最高益を出し続けながら納税を免除されてきました。

    ◆実際に大手銀行だけでなく、数多くの企業が法人税を納税していません。そのため税収は大幅に落ち込んでいます。消費税の税率が3%の時代よりも、税率5%の現代の税収の方が少ない状況です。

    ◆「増税は景気回復を待ってからだ」「財政再建は待ったなし。景気回復を待っていられない」こんな水かけ論が10年近く続いた末に、現在、野田首相は政治生命をかけて消費税増税に挑んでいます。しかし、増税しても景気が落ち込めば、企業は再び法人税を払わず、税収は思うように伸びないかもしれません。そのようなリスクを冒してまで、消費税増税が本当に適切でしょうか?

    ◆問題はどうすれば安心して消費できるか、その環境をどのように醸成するか、です。消費が増えれば税率5%のままでも消費税収は増えます。消費が増えれば企業は利益を出し、法人税収が増えます。そこで賃金を増やしさえすれば、所得税収は増えます。消費だけでなく、ローンを組む個人消費や企業の設備投資が増えれば、金融機関の融資先も増えるでしょう。

    ◆そのためのカギは、賃金を増やすことです。物価下落より賃金が下落する社会で、景気回復など起こるはずがありません。将来不安も充満しており、消費より貯蓄しなければ将来が成り立たない状況では、誰も消費をしようとしません。財務省は、消費税収は安定しており、従って消費税は安定財源と主張していますが、これは消費税課税対象の消費が増えていないというだけです。

    ◆現代では、個人以上に企業が貯蓄志向です。内部留保を分厚くするために、利益が出ても、従業員への配分を高めようとはしません。その上、法人税を減税せよと主張しているのです。これを是正せずして、どうやって税収を増やそうというのでしょう。デフレ脱却を掲げながら、物価下落以上の賃金下落という「不都合な真実」に言及しない政府の姿勢はおかしい。

    ◆物価が下がっても、賃金が下がらなければ、消費は拡大し、いずれ物価は上がるはずです。日銀のインフレ目標を実現するためにはマネーサプライを増やす必要がありますが、日銀がいくら金融緩和を行っても、企業(金融機関を含む)がカネの流れを止め続ける限り(すなわち投資や賃金を増やさない限り)、マネーサプライなど増えず、インフレになりようがない。

    ◆利益を出した企業から賃金を高めるよう、政治が介入してもよいのではないでしょうか。小平は共産主義国家のリーダーながら、「先に豊かになれる人が豊かになり、豊かになった人は他の人も豊かになれるように助ける」と主張しました。利益が出ても、経済の先行き不安などを煽ってどこの企業も横並びに賃金アップを渋ります。小平氏は草葉の陰で笑っているでしょう。

    ◆アメリカでも世界恐慌の真っただ中でフォードは賃金を増やし、自社の従業員にフォードの車を購入してもらおうとしました。消費税増税の前に、まず不条理に下がっている賃金を高めるべきです。日本の企業は本当に賃金を増やす余力がないのか、疑ってかかるべきです。賃金を減らしたJALは過去最高益です。何がV時回復でしょう。そんな利益の出し方は明らかにおかしい。

    ◆賃金が増えればデフレを脱却できる。問題はそんな単純なものでではない、と主張する人もいるでしょう。しかし、実は単純なのではないでしょうか。その単純さが「不都合な真実」で、高額所得を得ているエコノミストや企業の経営者などが、陰に陽に政治に影響を及ぼし、景気の好転を阻み、消費税増税という安直な道を走らせているのでは、と筆者は疑います。




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    2012.05.16 Wed  - 経済 -   コメント 1件

    コメント

    No title
    以前より、コメントを頂きましてありがとうございます。
    いつも批判的な内容で申し訳ないのですが、当方のブログにて消費税についての意見を再度述べさせてもらいました。


    この記事へのコメントです。
    「日本では消費者物価指数の下落以上に、賃金が下落しています。モノ・サービスの価格以上に賃金が減るということは、感覚的には物価は上がったと考えてもおかしくはない状況です。」
    その通りなのですが、消費支出の推移を見る限り、それが消費減少になるとはいえないと思います。
    むしろ経済格差による低所得者や高齢者の増加による偏りが賃金全体が減少する理由で、正社員などに限れば給与は過去より僅かながら増加しているのと、消費額は物価下落以上に増えています。(自分の場合)


    「この状況下で消費税を増税すれば、最低限の支出はともかく、他の消費が冷え込むことは明らかだと考えます。」
    日本は海外と比較して税負担率が低いとも言われています。高税率でも経済成長していた国が参考になりそうです。

    「利益を出した企業から賃金を高めるよう、政治が介入してもよいのではないでしょうか。」
    賃金を増やすというのも消費が増えないのは所得が増えないからなので、そうなのですが、どうしてそうなるかを考えなければなりません。
    無理に賃金を上昇させて競争力を失えば、また同じことに陥ることになります。



    「企業(金融機関を含む)がカネの流れを止め続ける限り(すなわち投資や賃金を増やさない限り)、マネーサプライなど増えず、インフレになりようがない。」
    これもいつも意見が対立する点ですが、内部留保などをする要因を取り除き、投資のインセンティブがなければと考えます。
    企業が利益を求めるのは、企業が存在するための動機なので、それを政府が介入して賃金を高めたとして、それで従業員が仕事を失うことになれば意味がないのではないでしょうか。


    エコノミストはともかく、経営者が景気好転を阻むとは思えません。そして、無理な賃金上昇は、かえって不景気になると考えます。
    2012.05.17 Thu l ラヴログ. URL l 編集

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