◆日銀はインフレ目標1%を達成するために、各種の政策を総動員しています。民間の金融機関が行う成長分野への融資を支援する制度を整え、投資活動の活発化を図っています。これについて、朝日新聞では、

    「デフレ脱却には金融面からの下支えだけでなく、成長力強化の努力も必要」というのが白川総裁の持論。

    と報じました。

    ◆学説自体、複数存在するため、誰の主張が正しいかは軽々に断じ得ませんが、筆者は、これは「白川総裁の持論」ではなく、極めて正論だと考えます。朝日新聞は同日の別の記事で、

    日銀は今回、ABL支援の延長に加え、小口融資、米ドル建て融資と支援先のメニューを広げたが、金融界には「銀行が貸せる成長企業は少ない。結局は少ない優良企業を低金利で奪い合うだけだ」(大手行幹部)と冷めた見方が少なくない。

    とも報じています。日銀がどれだけ金融機関の融資支援制度を充実させても、肝心の民間金融機関が「貸す」という行為を行わなければ、市場に資金は回らないのです。

    ◆限られた優良企業に低金利で資金を貸すような金融活動が続いても、低調な投資は雇用も低調にしか拡大しないでしょうし、賃金の上昇率も低調でしょう。内需に与える刺激は限定的になります。金融機関自体も低金利での貸し出しですから、金利収入は多くを見込めません。その結果、預金者への利率は、すでに10年以上超低金利状態に据え置かれたままです。

    ◆日銀の成長分野への投資を支援する制度では、従来3.5兆円あったものを2兆円増やしました。しかし、研究資金を求めてマラソンを走ったips細胞の生みの親、京都大学の山中教授が集めた資金は1000万円です。従来の3.5兆円はどこに使われているのでしょう?寄付と融資とでは違いますが、10年・20年単位で山中教授を支援する金融機関が存在しない現実は深刻です。

    ◆インフレ目標を導入すべきという学説では、この政策によって期待インフレ率を高め、それによって投資を促進しようという狙いがあります。実際に円安・株高が進行している現状は、その期待インフレ率が高まり、実質利子率が低下したことによって、円は売られ、円安によって輸出企業の業績回復が期待されたことが株高の端緒となりました。

    ※実質利子率=名目利子率-期待インフレ率

    ※期待インフレ率がマイナス(すなわちデフレ)と予測されていた頃は、上記の式から、この実質利子率が名目利子率より高くなるため、高利回りを求めて円買い(円高)が進んでいましたが、日銀のインフレ目標導入(期待インフレ率がプラス)により、実質利子率が名目利子率を下回り、円売りが進んだと考えられています。

    ◆しかし、株高、円安ともに株を売る人、円を売る人がいれば、株を買う人、円を買う人もいますので、金融資産の取引の活発化自体はあくまでも交換に過ぎません。本来的な投資は、実際の生産活動を拡大させ、それによって雇用や賃金の増加を導き出すことができるはずです。また、これによって内需が拡大することで、初めて物価が上昇します。

    ◆物価上昇を期待するという考え方は、ただ物価が上がればよいのではなく、雇用や賃金の拡大によって需要が高まることに本質的な狙いがあります。白川総裁の対応は「持論」ではなく、この投資活動の活発化を企図したものといえます。また、それによってインフレに対する期待が失望に変わることを避ける狙いがあると考えます。

    ◆インフレへの期待が持続すれば、円を売って、株を買い、株価の上昇は多くの企業に含み益をもたらしますから、やがて企業は設備投資などに資金を回し始めると考えられています。ということはインフレへの期待を持続させる必要があるために、日銀は従来の中央銀行の金融政策の枠を超えた対応に踏み切ったとみるべきと考えます。

    ◆しかし、その一方で、金融政策とは広義には日銀だけが担うものではなく、金融庁などの監督行政も含むと考えるべきです。現在の金融庁の監督行政は大手銀行等に対して非常に厳しく、リスク管理の徹底が常に求められています。先日もFRBがアメリカの大手金融機関に一斉に検査に入り、その結果、主要金融機関のうち4社がストレステストをクリアできなかったと報じました。

    ◆日本では、銀行等に対する規制が非常に厳しく、このようなストレステストに不合格となる金融機関は少ないとみられていましたが、金融庁の目が届かなかったAIJはリスク管理の甘さから巨額の損失を出しています。

    ※筆者はこれまで「官僚」という無定義な言葉を避け、「公務員」と記載し、その責任も限定的に考えてきましたが、本件は明らかに金融庁の監督の失敗だと考えます。

    ◆このような現状では、ハイリスク・ハイリターンを求める投資活動を期待することは難しく、将来的にはインフレ期待は小さくなる可能性が高いとも考えられます。昨今の株価上昇、円安も日銀の金融政策に対するご祝儀相場を終えて、欧米各国の経済の安定が主要因と見られるようになってきました。2000年代同様外需への期待が株相場の活況原因に移りつつあると考えます。

    ◆日銀がインフレ期待を失望させず、実際にインフレに至る投資・消費を促進しようと考えるならば、確実に資金を市場に流す手段として、絶対にその資金を使用する団体にお金を渡す方がよいのではないでしょうか。その団体とは政府です。莫大な国債を抱え続けながら、それでも国債を発行して支出を拡大している主体です。

    ◆子ども手当にかかる費用は約2兆円といわれていますが、日銀がその2兆円を引き受け続ければ、子育て世代の消費は拡大するでしょうし、大学の学費等をまかなう奨学金制度に資金を拠出すれば、子育て世帯の貯蓄志向を消費志向へと改善させられるかもしれません。

    ◆インフレ期待という漠然とした感覚に頼っても、株高はいつまで続くか分かりませんから、容易に設備投資に資金が回らないでしょう。インフレ期待だけに頼る政策には無理があります。一方で、このようなお札を刷って政治を行う手法(日銀による国債引き受け)は実際にはどの程度の物価上昇をもたらすか分からないため、批判の声も強い。

    ◆健全なインフレの実現への道は依然険しいものと考えます。


    ※なお、先般の当方の記事「投資しかない」の末尾で、「期待インフレ率が高まっても、実際に投資が進むかは疑問です」と記載しましたが、実際に投資が進むらならば、まず間違いなく期待インフレ率は高まるでしょう。従って、この記載は誤りでした。期待インフレ率が高まるならば投資は促進されると考えます。

    ただ、現状を見る限り、期待インフレ率が高まりながら投資の促進までに時間がかかる現状では、現在の日銀のように政策を総動員しなければ、投資に結び付かない可能性はあると考えます。


    スポンサーサイト
    2012.03.15 Thu  - 経済 -   コメント 0件

    コメント

    コメントの投稿












    トラックバック

    トラックバック URL
    http://olddesk77.blog97.fc2.com/tb.php/453-56bf14c8
    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
    ◆日銀はインフレ目標1%を達成するために、各種の政策を総動員しています。民間の金融機関が行う成長分野への融資を支援する制度を整え、投資活動の活発化を図っています。これについて、朝日新聞では、「デフレ脱却には金融面からの下支えだけでなく、成長力強化の努力も...
    2012.03.18 Sun l まとめwoネタ速suru