◆昨年の一字は「絆」、東日本大震災で家族の絆が改めて見直されました。民主党を離党した議員は、流行語にあやかって党名を「きづな」とし、その離党劇に対して野田首相は「絆が薄かったのかな」と応じました。冒頭から脱線しますが、ジョークの上手い首相は小泉首相以来ではないかと思います。センスを感じます。

    ※旧自由党と旧民主党が合併した際(民由合併)、小泉元首相が発した「自由党と民主党が合併、自由民主党?分からないねぇ」というコメントは秀逸でした。元首相の政策は余り支持していませんが、このジョークは好きです。

    ◆まだ、本題ではありませんが、筆者は地元と勤務地を往復する際、新幹線を利用します。一人で移動する時は、つい駅の売店でゴルゴ13のマンガ(文庫本タイプ)を買い、車内でよく読んでいます。色々と知識を得られる上に、単純に面白いので、ついつい買い込んでは、その後ブックオフに売っています(マンガ喫茶でまとめて読んだ方が本当は安上がりです)。

    ◆さて、そのゴルゴ13で悪役の欧米企業の経営者が、日本人について「対処能力だけで、世界戦略を描けない民族さ」と笑うシーンがありました。実に耳の痛い話ですが、確かにその通りだと考えます。

    ◆昨日記載した「映画『聯合艦隊司令長官 山本五十六』について」でも、山本長官が対米戦の帰趨にばかり着目し、日中戦争を含む世界規模の戦争、戦後世界の秩序についてどう考えていたのか、映画は何も語っていないことを批判しました。東日本大震災が発生した2011年は、まさにそのような大局的視点を欠いた形式主義、先例主義、木を見て森を見ずの一年だったと考えます。

    ◆津波対策がゼロに等しかった福島の原発事故はその象徴ですし、年末に警視庁に出頭したオウム事件の平田容疑者への対応は2011年納めという観を覚えます。同容疑者の出頭を悪質な悪戯と判断したまでは「ミスもある」と思いますが、その人物を追い返さず、丸の内署に行かせた対応は理解不能です。根本的な問題解決を志向せず、その場しのぎの対応を行った典型的な例です。

    ◆TPPについては議論百出ですが、ではTPPに加入しないとして、日本も参画する世界の貿易体制の将来をどのように描くのか。京都議定書から離脱するのは結構ですが(筆者は反対ですが)、では、世界規模の温暖化対策をどうするのか。消費税を増税するとしても、富の再分配はどうするのか。全体像、長期的展望なき小手先の対応ばかりが目立ちます。

    ◆「国益」という言葉も、言葉だけは壮大ですが、長期的展望を持って世界の変化を先取りしなければ、国益はいずれ細ります。国益を守るという政治家の発言は極めて空虚です。中身が重要ですが、その中身に触れないまま、最近は国益という言葉が安売りされているように感じます。「毅然と」「ブレない」という言葉も流行りですが、単なる見栄に過ぎないように感じます。

    ◆昨年、NHKのドラマ「坂の上の雲」が最終回を迎えましたが、日本は形式主義・先例主義を打破してロシアに勝ちました。その当時の東郷平八郎聯合艦隊司令長官の「連合艦隊解散の辞(ドラマ「坂の上の雲」の主人公、秋山真之が起草したとされる)」では、以下のような内容があります。

    百発百中の一砲能く百発一中の敵砲百門に対抗し得るを覚らば、我等軍人は主として武力を形而上に求めざる可らず。(中略)

    事あれば武力を発揮し、事無ければ之を修養し、終始一貫其の本分を尽くさんのみ。(中略)

    神明は唯平素の鍛錬に力め戦はずして既に勝てる者に勝利の栄冠を授くると同時に、一勝に満足して治平に安ずる者より直に之を奪ふ。

    ◆「毅然と」「ブレない」といった言葉は、恰好を表す言葉ですから、「連合艦隊解散の辞」が戒める「形而上」の政策を求めていることと同じです。一億総中流と謳われた日本で、格差社会が進展し、社会保障制度は危機に瀕し、行政の効率化も図れないまま財政は膨らんでいます。まさに「一勝に満足して治平に安ずる者より直に之を奪ふ」です。

    ◆TPPに反対する意見の多くは現状を変えることに対するデメリットを強調されます。しかし、現状を維持したくとも、世界の潮流が変わる可能性がある。勝利の栄冠は奪われる恐れがあるのです。そのために平時の修養が不可欠と、東郷長官の辞では訴えています。「事無ければ之を修養し」とは、常に長期的展望を持って、日本に有利な世界戦略を自ら描くことではないでしょうか。

    ◆かつて、開国は幕府始まって以来の最大の「ブレ」でした。そのために幕府の威信は揺らぎ、力で抑え込もうとすると、大老が逆に暗殺されるという事態に陥ります。後を継いだ幕閣は形式主義・先例主義に立てば有能な為政者だったかもしれませんが、非常時を乗り切る知恵のないまま、天皇の権威に頼り、公武合体を推し進めますが、最終的には幕府は瓦解します。

    ◆その明治政府は、そもそも攘夷を掲げていたはずなのに、手のひらを返したように開国に走り、髷を落とし、刀を捨て、先例も形式も投げ捨てて、近代化を推し進めます。プライドよりも実力を科学的に検証する視野がありましたから、ロシアの恫喝を受けて、即座に遼東半島を返還し、10年間、国家予算の半分以上を軍事費につぎ込み、米・英の支持を勝ち取って日露戦争に挑んだ。

    ◆翻って現代の我が国は北朝鮮という脅威の最前線に立つ韓国に対し、ただ反日感情が強く、歴史認識を異にするというだけで、関係強化に慎重な意見が、こともあろうに政権を担いうる最大野党から上がります。一昨年前の尖閣諸島問題ではレアアースの輸出を止められて、経済界から悲鳴が上がりました。戦前、アメリカに鉄・石油の輸出を止められた教訓は全く活きていません。

    ◆それでもプライドにこだわって外交における弱腰を嫌い、発言がブレることを嫌う意見が多々見られます。政治も経済も見えない未来を手探りで進んでいますから、その時々で方針を小刻みに変える必要があるはずです。長期的・大局的な視点を持ち、無難を拒み、先例・形式を排除するならば、短期的・小規模な朝令暮改は決して悪いことではありません。

    ◆自民党下野の理由は、単にマニフェストの比較だけではないでしょう。格差は小泉政権以前から拡大し、むしろ同政権期には縮まったという意見を耳にしますが、格差社会を容認したかのように発信したのはやはり小泉政権です。安倍政権では残業代をカットする制度まで検討されました。その一方で、年金問題のように自民党の長期政権中に社会保障制度は内部崩壊していた。

    ◆対アジア外交が大きく後退したのも小泉政権以降です。安倍政権以降、外交の立て直しがはかられましたが、同首相がそもそも親米路線、反中・韓思想を持っているために、首相の発言がもとで歴史問題が再燃する始末です。民主党は富の再分配の立て直しや、外交の立て直し、環境問題への意識の高まり、駐留米軍問題の新展開を期待して、政権を得たと考えます。

    ◆しかし、その長期的な政策転換はどこへやら、野田首相は年頭の記者会見で「先のことは考えていない。今を確実に」と発言する始末です。マニフェストに書かれた施策のうち、達成できなかった施策は何で、それはもう無理と判断するのか、時間をかけても実行するのか、増税が必要になるがそれでもやるか、など、マニフェストを仕分けし、けじめをつけるべきでしょう。

    ◆社会保障一体改革といっても、厚生労働省が年金支給時期の68歳への引き上げを検討したり、一方で企業に65歳までの雇用義務を求めようとしたり、一般的な国民の老後の生活は皆目分かりません。すなわち、社会保障制度の長期的展望は不明瞭で、短期的・小規模な施策のみを提示するだけです。その提示をもって一体改革とし、消費税増税に走る姿勢はやや姑息です。

    ◆民主党も自民党も原点に立ち返り、低負担低福祉か、高負担高福祉か、中央集権か、地方分権か、行政はどこまで効率化できるか、既得権にどこまでメスを入れるか、といった議論を行った先に、適正な歳出規模が算出できます。その歳出規模に見合う歳入を、いかにして、所得・資産格差に配慮した税制で課税するかが問題です。今の消費税議論ではこれは欠落しています。

    ◆党首討論も形式的に催すショーならやめた方がよいでしょう。時間と労力の無駄です。前回の党首討論では、直前の沖縄防衛局長の失言について首相を批判していましたが、国政政党の党首同士が議論するような内容ではありません。10年先の外交方針や経済政策、社会保障制度、税制の将来といった大きなテーマを取り扱うべきでしょう。

    ◆小さな見栄にこだわらない、形式にとらわれない、先例に縛られない、木より森を見る政治が必要だと、ゴルゴ13を読んで、つらつらと思いました。




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    2012.01.08 Sun  - 政治 -   コメント 0件

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