◆年末に映画「聯合艦隊司令長官山本五十六」を見ました。筆者は基本的に戦争映画が好きですので、こういう映画が公開されるとつい足を運んでしまいます。内容について記載したいと考えますので、これからご覧になるという方はご注意ください。

    ◆結論から申し上げると、非常に冗長なストーリーで、物足りないものに感じました。山本長官が映画に描かれているような、穏やかな人物であったとするならば、私は強い憤りを覚えます。

    ◆山本長官が対米戦争に反対していたということは有名な話で、早期講和が必要と認識していたことも歴史研究の中では明らかになっています。映画も山本長官の意志を全面に打ち出して描かれています。早期講和を目指しながら、真珠湾攻撃以降の日本の主要な作戦を指揮せざるを得ないという、山本長官の運命の皮肉さが物語の核となっているようでした。

    ◆「敵は恐れるに足らず」と主張する部下を山本長官が「根拠はなんだ?」とたしなめるシーンや、日独伊三国軍事同盟が締結された際に、「アメリカと事を構えるとなると、鉄・石油など戦争に必要な物資をアメリカに頼っている我が国は、今後必要物資をどのような調達するのか」と詰め寄るシーンは、確かに終始冷静で、戦争の本質を見る山本長官像を描いているようです。

    ◆しかし、たしなめられて即座に返答に窮する部下、必要な軍需物資の供給先について言葉を濁すだけの海軍の幹部、山本長官の優秀さ以前に、余りにも他が無能であることを強調し過ぎているのではないでしょうか。これが史実ならば、本当に情けないことです。これが確かな史実です、ということなのでしょうか。

    ◆アメリカから調達していた軍需物資を他に求めるために、南部仏印への進駐があり、そこから日本への海上輸送ルートを確保するために、アメリカ太平洋艦隊の撃滅を図る真珠湾攻撃やイギリス海軍の動きを封じるためのシンガポール攻撃があったと記憶しています。それとも、これらは走りだしてしまった陸海軍の後始末のために、山本長官が一人で立案したのでしょうか?

    ◆どうも、本当に史実なのだろうか?という思いが消えない作品でした。

    ◆もう一点、大きな問題は日本の侵略の是非に全く触れられていないことです。アメリカとの戦争は無謀である、開戦するとしても早期講和が必要、という考え方は戦略としては正しいでしょう。しかし、それよりも日本の大戦略として、中国との戦争をどうするかということが当時最大の問題だったはずです。また、朝鮮半島・台湾を植民地支配していた事実もあります。

    ◆侵略については、この映画のテーマではない、ということかもしれません。しかし、山本長官の英明さだけを賛美しても、なぜ敗戦に至り、今日なお帝国主義国家であった戦前日本の残像を背負わなければならないのか、という疑問を解消することはできません。

    ◆映画の山本長官は夕食の場で難しい議論になると、「この料理はうまい」といって場を和らげ、開戦を煽る新聞記者にも丁寧に対応し、家族に優しく、ミッドウェーの敗報を聞きながらも諦観した様子で部下と将棋を続けます。権威的にならず、型にはまらない、いかにも日本人好みしそうなリーダーとして描かれています。

    ◆映画ではミッドウェー海戦時、空母に乗艦し、ミッドウェー諸島の制圧および敵艦隊の撃滅を命じられた司令官が、敵艦隊の出現はないと踏んで、山本長官の命を破り、艦載機に魚雷を搭載させなかったために、敵艦隊攻撃の機会を逃し、逆に空母4隻を失う大敗北を喫します。しかし、山本長官はその司令官に対しても、お茶づけを出して温かく迎えます。

    ◆この場合、怒るべきではないでしょうか。山本長官はそんな人物ではないというならば、私は山本長官を余り評価できません。日本海軍の実力を知り、アメリカ軍が南洋諸島から北上してくること、潜水艦などの機動力を駆使して日本の海上補給路を断つことを見越していたならば、ミッドウェー海戦は負けることのできない一戦だったはずです。そのこだわりが全く感じられない。

    ◆ガダルカナルの戦いも撤退作戦の場面しか描かれていません。山本長官は「最後の一兵まで救え」という指示を出します。長官の志の高さが描かれています。しかし、実態はガダルカナルの戦いが始まって以降、日本軍は満足に食糧・弾薬を送れず、五体満足の精鋭が食糧不足のために、島への上陸後1週間で戦闘行動など、とてもままならない状態に追い込まれていました。

    ◆この間、史実の山本長官は様々な手立てを駆使して、食糧・弾薬補給に努めます。島の飛行場を米軍に抑えられており、輸送船は容易に島に近づけません。夜間に島に近付き、食糧・弾薬を海に投下して漂着させる補給方法を続けていました。当然ながら日本軍の必要量には届かず、食糧不足・弾薬不足のまま、無謀な突撃が繰り返されます。しかし、これらは全く描かれていません。

    ◆日本にとっての太平洋戦争は、まず、日中戦争が先にあり、中国を側面支援するアメリカ・イギリスとの対立があります。日本が局面打開のためにドイツ・イタリアと手を結び、アメリカがさらに態度を硬化させて、日米対立が解けることのないまま戦争に突入します。両国とも開戦含みの交渉をしており、ハル・ノートなどがよく問題視されますが、これも所詮経緯の一つです。

    ◆山本長官の早期講和による対米戦終結は、日本が破局を免れるために非常に重要な考えだと思いますが、では日中戦争はどのようにして終結させようと考えていたのでしょうか。あれは陸軍の戦争ということでしょうか。今後も宗主国と植民地が併存する帝国主義時代が続くことを意図していたのか、将来的には帝国主義時代からの脱却が必要と考えていたのかどちらでしょう。

    ◆日本の戦争の根源的な問題まで明らかにした上で、山本長官はどこまで頑張り、何が限界で、どこかに欠点もあった(なかったのかもしれませんが)、という作品でなければ、戦争映画としては不十分だと考えます。山本長官は英明だったが、他はバカだったというストーリーは余りにも短絡的です。

    ◆特筆すべき事項は、新聞記者が開戦前と終戦後で報道姿勢を豹変させるシーンくらいでしょうか。しかし、これも新聞の無責任ぶりを意図的に強調しているようにも見えます。実際には、新聞社の多くが戦時の報道を誤りだったとし、その反省に立って、現代では政府発表をしっかり検証するという姿勢に立っています(これも賛否両論あるでしょうが)。

    ◆この映画は戦争映画というより、特定人物をただ賛美するだけの作品に落ちてしまっていると筆者は考えます。うがった見方をすれば、英明なリーダーの渇望、マスコミ不信といった現代の風潮にただ乗りした作品と感じます。残念です。



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    2012.01.07 Sat  - 歴史観 -   コメント 0件

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