◆昨年、TPP論議に際して、混合診療の解禁を巡る問題が取り上げられました。日本医師会等は混合診療の解禁に強く反対しています。日本医師会のホームページによれば、反対の理由としている点について以下の例示が挙げられています(日本医師会ホームページ「混合診療ってなに?~Q&A~」より)。

    (1)政府は財政難を理由に、保険(健康保険)の給付範囲を見直そうとしており、混合診療の解禁により、現在健康保険制度で見ている療養までも「保険外」とする可能性がある。

    (2)混合診療が解禁された場合、受けられる医療が所得・資産によって制限されることにより、不公平が生じる。

    (3)「保険外」として取り扱われる診療の内容によっては、所得・資産により必要な医療が受けられない可能性がある。

    ◆上記の例示内容は非常に問題です。現在、健康保険対象内となっている診療が保険外となることで、これまで健康保険の枠内の負担で済んでいた医療が自己負担となれば、確かに所得・資産によって、いわゆる裕福な人のみが高質の医療を受けられることになります。これは極めて不公平な制度です。

    ◆しかし、上記の問題は、混合診療の解禁によって生じる問題でしょうか。

    ◆現在、健康保険対象外の医療(先進医療等)と健康保険対象内の医療を組み合わせて受診する場合、混合診療が禁止されていますので、全額自己負担となります。混合診療が解禁されれば、健康保険対象内の医療に関しては、健康保険が医療費を一部負担することになります(一般の成人の場合、自己負担割合は3割。健康保険7割を負担)。

    ◆健康保険に加入し、その保険料を払っている以上、健康保険対象内の医療に対しては健康保険がその医療費を負担すべきです。すなわち混合診療の方が、筋が通っていると考えます。保険対象外の医療を組みわせたことで、対象内の医療まで全額自己負担とする方が不適切ではないでしょうか。

    ◆仮に、先進医療技術・設備を用いねば命が助からないという場合、健康保険対象内外を問わず、全医療費を自己負担できる富裕層は適切な医療を受けられますが、自己負担できない非富裕層は、その医療を断念せざるを得ません。健康保険対象内の医療だけでも健康保険が医療費を負担してくれれば、患者は資金面で命が助かる医療に手が届くかもしれないのに、です。

    ◆また、先進医療技術・医療設備とは、現時点では「先進医療」であっても、未来には「通常の医療」になる可能性を持つものです。健康保険の給付範囲は医療技術の進歩とともに拡大していくことが本筋です。現時点では保険対象外の医療であり、結果的に「混合診療」になろうとも、将来は保険対象内の医療となり、従って患者は定められた割合の一部自己負担で済むはずです。

    ◆健康保険が上記の考え方から逸脱し、先進医療はもとより、現在の通常の医療まで対象外とするような給付範囲の縮減を図るならば、これは問題です。もとより強く反対すべきでしょう。所得・資産格差によって受けられる医療の質が変化するような不平等な健康保険制度は許容できません。しかし、これは混合診療が解禁されようと、されまいと反対すべきものです。

    ◆むしろ、もっと根源的な問題は居住地域によって受けられる医療の質に差があることです。無医村の問題は言うに及ばず、先進医療自体も東京を始め、大都市の病院や、医療技術が進んだ大学病院のある地域に限定されます。先進技術を持つ医師や医療施設のない地域に暮らす人は、受診にかかる交通費、患者の親族の滞在費等、様々な費用が発生します。

    ◆医療技術が進歩し、先進医療が通常の医療となって健康保険対象内になろうとも、その技術を持った医師や必要な設備が、最低でも47都道府県に配置されるようにするには、それなりの投資が必要になります。現在、医師不足が叫ばれ、地域の市民病院は慢性的な赤字体質にあります。看護師の人数も増やせず、長時間労働等の疲れから医療ミスが生じる危険性も低くはない。

    ◆解決すべき問題は必要な医師数、看護師数、病院等の施設の数を十分に揃え、また逐次レベルアップさせることで、医療技術の進歩に地域の病院が十分対応していけるようにすることではないでしょうか。そして、混合診療を解禁し、先進の医療を受診しやすくすることも必要だと考えます。健康保険の給付範囲は当然ながら、時代の進歩に合わせて拡大していくべきでしょう。

    ◆当然ながら、これらの医療関連投資は高額になると考えます。これを市場原理に委ねれば、高額の自己負担を求め、日本医師会が懸念する通り、富裕層に恩恵の厚い医療制度となります。ですから、逆に富裕層の健康保険料負担を高める制度設計が必要になります。また、単に富裕層だけでなく、全国民の健康保険料負担を高めざるを得ないかもしれません。

    ◆健康保険は大勢の人から保険料を集め、一部の傷病者の医療費負担を助ける制度です。健康な人は確かに保険料の払い損になります。しかし、万が一の時に高額の医療費を用意しなくても、適切な医療を受診できることに健康保険制度の意義があります。低負担・低サービスか、高負担・高サービスかを国民は選ぶ必要があるでしょう。筆者は後者を選びたいと考えます。

    ◆現在、低所得者層の中には健康保険料自体を満足に払えない人が増えています。病院の窓口で自己負担さえ払えないという人も数多い。医療の平等を考えるならば、こうした貧困層も含めた平等な制度を考える必要があります。所得の高低に関係なく同じ料金で徴収される健康保険料自体がそもそも不公正でもあります。

    ◆日本医師会が平等で公平な医療制度を志向するのであれば、健康保険の原資は所得・資産に配慮した保険料制度か、保険料制度を廃止し、全てを税に求め、その上で、適切な医療が低自己負担額で受診できるような制度を模索すべきではないでしょうか。その意味では医療費の自己負担額を下げる混合診療の解禁には賛成の立場に立つべきではないかと考えます。

    ◆日本医師会が懸念事項として挙げた健康保険の給付範囲削減は反対する一方で、健康保険の財政難については所得・資産格差に配慮した財政健全化を目指す。また、健康保険制度維持に関する事務や医療事務効率化(電子カルテの導入等)に努め、医療費の不必要な増加は食い止めるといった努力が必要だと筆者は考えます。


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    2012.01.06 Fri  - 政策 -   コメント 0件

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