◆従軍慰安婦問題をめぐって日韓関係がまた険悪な雰囲気に変わりつつあります。李明博大統領は、昨日の日韓首脳会談で、日本側に従軍慰安婦への賠償などを求めたとのことです。報道では、野田首相は「日韓国交正常化の際の協定で請求権問題は完全かつ最終的に解決済み」と応じ、韓国の日本大使館前に設置された少女像については「誠に残念だ」と述べたとあります。

    ◆一連の問題について、李明博大統領に対する首相・政府の対応には疑問があります。首相が李明博大統領に話した内容は上記が全てなのでしょうか。仮に、上記が全てであれば、日本政府の公式な回答としては非常に物足りないと考えます。

    ◆「請求権問題が完全かつ最終的に解決済み」とはどういうことでしょうか。

    ◆日韓国交正常化の際に、日本は約11億ドルの無償資金供与及び借款を行うことで、韓国は対日請求権を放棄することに合意しています。元従軍慰安婦の方に補償が必要であれば、日本はすでに両国で合意した義務を果たしているので、韓国の国民に対する必要な戦後補償は、第一義的には韓国政府が行う必要があります。

    ◆韓国が公式に賠償を求めるということは、過去に取り交わされた二国間の合意を一方的に放棄することであり、それは日韓関係に限らず、国際政治のルールに沿わないものであること韓国政府にしっかり説明すべきです。もし、本当に過去の合意を破棄し、新たに交渉を始めたいということであれば、過去日本が韓国に支払った約11億ドルを返還してから申し入れるべきでしょう。

    ◆日本大使館前に設置された従軍慰安婦問題を連想させる少女像についても、いかに二国間で厳しい問題が発生しようとも、大使館前にその国を侮辱するような像を設置する行為は非常識です。民間団体の対応であれ、政府は国交を結んでいる国の大使や大使館の尊厳を守る義務があります。

    ◆仮に冷戦時代にアメリカのソ連大使館前にスターリンが虐殺を指示する像を設置し、ソ連のアメリカ大使館前にベトナム人を虐殺したアメリカ兵の像を設置すれば、両国とも大使を引き揚げ、キューバ危機を超える緊張が発生したでしょう。大使や大使館は二国間に問題が発生しても、武力ではなく話し合いで解決していくための存在です。その尊厳を貶める行為は許されません。

    ◆坂本龍馬の乗っていた船が紀州藩の船と衝突し、沈没した際、龍馬は幕府の法ではなく、万国公法を持ち出し、国際ルールを説明して紀州藩から賠償を勝ち取ったエピソードがあります。日本政府の抗議は、日本の立場を説明するのではなく、韓国の行為が国際ルールに反していることを主張すべきだったと考えます。

    ◆仮に、野田首相が上記の内容を李明博大統領に説明したなら、それを国民に公開すべきでしょう。そうしなければ、何故韓国の行為が容認できないのかはっきりしないはずです。金を支払いたくない、大使館を侮辱する行為はけしからん、といった喧嘩レベルの問題ではないはずです。


    ◆一方で日本国内にも問題があります。

    ◆従軍慰安婦問題について、李明博大統領は「日本政府がもう少し(慰安婦問題に)関心を見せてくれれば起こらなかった」と指摘したとのことです。おそらく大統領の本音ではないかと考えます。本当にこの問題が起こらなかったかは分かりませんが、近年の韓国の大統領の中では最も親日的だった李大統領が歴史問題に触れざるを得なかった事態は日本側にも非があると考えます。

    ◆従軍慰安婦問題について、韓国側の受け止め方はともかく、日本としては、これまできちんと誠意を尽くしてきました。教科書に載せるレベルか、従軍慰安婦の徴用が官営だったか民営だったか、慰安婦の方が自発的に参加されたか、強制だったか、様々な議論がありましたが、基本的には日本が関与した戦争の過程で発生した事件であり、政府も公式に謝罪してきたはずです。

    ◆しかし、安倍元首相が従軍慰安婦問題に関するNHKの番組編成に介入し、また、従軍慰安婦問題の日本政府の責任を否定するような発言によって、この問題は再び韓国世論の強い反発を惹き起しました。アメリカ議会での非難を受けて、安倍元首相が後に政治判断で謝罪したことを考えれば、問題の本質がどうあれ、この問題に政治が触れるべきでないことは明らかです。

    ◆今日の問題の原因の一つに、安倍外交の軽率さがあると筆者は考えます。90年代に積み重ねてきた日本の謝罪や誠意が、一人の首相の歴史を踏まえない発言によって台無しになったことを考えれば、今後の首相や国会議員はきちんと襟を正して外交に臨むべきです。このような過去の経緯を分析せずに、他人事のように野田首相に注文をつける自民党を、筆者は無責任と感じます。

    ◆日本の外交戦略における懸案は北朝鮮と中国です。いずれも自由主義国家ではなく、また、両国ともに軍拡を進めています。拉致問題解決を含む対北朝鮮政策では、日本は韓国の協力が必要であるはずです。中国漁船乗組員が起こした死傷事件では中韓関係は揺れており、類似の問題を抱える日本は、この問題でも韓国と協力していけるはずです。

    ◆日韓は東アジアの自由主義国家同士で、両国の経済交流も過去考えられないくらい深化しました。韓国市場は日本にとって、日本市場は韓国にとって非常に重要です。フランス・ドイツが過去の恩讐を超えて、現在親密な関係にあるように、日韓の信頼関係強化は両国にとって大きな利益になります。また、東アジアの平和構築に大きく寄与できると考えます。

    ◆対韓外交においては、長期的、大局的な見地に立った政策が不可欠です。そのためにも従軍慰安婦問題で、これ以上、日韓両国が不毛な対立に陥ることのないよう、少なくとも日本側が隙を見せることのないような外交姿勢が望まれると考えます。


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    2011.12.18 Sun  - 外交 -   コメント 0件

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