◆菅首相がついに退陣を決めました。内閣不信任決議案提出以降、約3ヶ月もの間、首相の退陣時期をめぐって政府・国会は混乱しましたが、それ以上に昨年の参議院選挙における菅民主党の敗北以降の政治の混迷は目に余ります。


    ◆首相に具体的成果がない訳ではないでしょう。政府の原子力政策の見直しは、次期政権で多少の手直しがあったとしても、もはや止める事はできないと考えます。手法は批判されましたが、浜岡原発の停止を要請したことは菅首相の慧眼だったと筆者は評価します。地震予測から考えても、そもそも浜岡原発が作られた経緯に疑問を覚えざるを得ません。

    ◆しかし、得たものより失ったものが大きいことは明らかです。市民活動家出身という首相のルーツとは裏腹に、日本におけるリベラルな政治は菅政権期に大きく後退したと考えます。


    ◆「保守」と「リベラル」が対置されることは多くあります。しかし、本来、保守とリベラルは対立する関係にはないと筆者は考えます。保守は歴史や伝統を重んじ、過去の価値観を温めながら、現代の政治に活かそうとします。しかし、リベラルも、必ずしも伝統を破壊しようという思想ではないはずです。

    ◆日本のリベラルは、一つの思想で国民を縛る戦前の全体主義的な体制を批判的にとらえ、個々人の価値観の自由をより広く認めていこうとするものです。国家の繁栄より個人の幸福に重心を置き、富の再分配を肯定的にとらえる思想だと考えます。一方の保守は、過去のどの時代のどの価値観を大切にするかで、考え方が全く変わってしまいます。

    ◆従って、特定の時代の特定の価値観がリベラルの志向する社会像と合致すれば、必然的に保守とリベラルは同義になります。現在のリベラルの目指す先は、一億総中流の社会を築き、平和主義を標榜して冷戦期の国際社会を生きた戦後日本でしょう。

    ◆戦後のリベラルとは、実際は自民党が担ってきたのです。高度成長を推し進めながら、富の再分配に努めたのは自民党です。沖縄返還のために、日米関係を良好に保とうとしたのも自民党です。沖縄を占領するアメリカを誰が面罵したでしょう。しかし、今の自民党は中国や韓国が相手となると、関係悪化も辞さない強硬姿勢をとっています。


    ◆昨今の政治家は軽々に左翼的、弱腰とレッテルを貼りたがりますが、リベラルな人でも領土問題で強硬な主張を述べる人はいますし、保守的な人でも慎重な外交を望む人はいます。領土問題は戦略的に、したたかに解決すべき問題ですから本来イデオロギーの問題ではないはずです。沖縄返還も強硬論一辺倒で解決した訳ではありません。それを今の自民党は忘れています。

    ◆現在、安倍元首相らを中心とする「保守」は、安倍氏の祖父岸信介元首相の影響を色濃く受け、軍国主義時代の日本を肯定的に捉えようする方向性は強く表れています。

    ◆岸信介氏は東条内閣の商工大臣で満州国建国に深く関与した政治家です。その時代は特別高等警察が日本国民を監視し、言論の自由が奪われていった時代です。岸氏の経歴に弾圧に関与した記録がなくとも、為政者の一人として責任は大いにあります。

    ◆その岸元首相の思想は国民の幸福より国家の繁栄を優先するものです。国家が繁栄して初めて、国民が栄えるという思想です。しかし、国家の繁栄の為に引き起こした戦争は、国民に惨憺たる被害を与えました。その戦争は無謀だと反対した人々が迫害されたことを、岸氏は生前謝罪したのでしょうか。その岸氏の思想が今の時代にどのように活きるのでしょうか。

    ◆戦後の日本は世界平和を希求し、国際社会に日本の権威を見せつけるよりも、生活を豊かにする製品を開発し、販売することで経済大国の地位を勝ち得ました。豊かさの階段を駆け上がった日本に憧れを覚えて、他の国々は今、日本を追いかけているのです。しかし、現在、世界の平和を考える政治家は何人いるでしょうか。代わりに「国益」を訴える政治家がほとんどです。

    ◆尖閣諸島を攻撃された場合どうするのか。国会で質問を受け、枝野官房長官は自衛権を行使すると回答しました。主権国家なのですから、尖閣諸島だろうが対馬だろうが、日本の領土が攻撃されたら、自衛権を行使することは当然です。しかし、政府がその回答を公式にすることで中国国民の反日感情は再び煽られるでしょう。

    ◆先日、自民党の国会議員が竹島問題の調査のために訪韓しましたが、入国できないという事件が発生しました。どのような主張を持つ人物であれ、犯罪者でない以上、入国を拒否する行動は異例ですし、容認できません。しかし、入国させないという韓国の姿勢は事前に分かっていたはずです。現実に入国できず、韓国でも反日的な機運が高まりました。

    ◆北朝鮮という明確な脅威がありながら、それを包囲すべき隣国と敵対する外交が本当に国益にかなうのでしょうか。隣国を味方にせずとも、敵にして繁栄した国など古来聞いたことがありません。相手にもナショナリズムがあります。武力で領土を取り返せない以上、対話以外に解決手段がないことは明白です。対話の席に着こうとも、相手が恫喝と思えばやはり話にもなりません。

    ◆中国も韓国も過去10年で最も親日的な政治家が国をリードしているというのに、日中韓関係は何の進展も見なかった。中国・韓国との関係を利用しようという考えが生まれず、一部の政治家が敵愾心を煽ることを菅政権はただ見ているしかない状態でした。本来は、国益のためにこそ、東アジアの緊張緩和に務め、世界の平和や安定を希求すべきだったはずです。

    ◆この問題の背景に、菅外交の最大の失敗である尖閣諸島沖での漁船拿捕事件があることは明らかです。日本国民にぬぐい難い屈辱感を植え付けたこの事件のために、領土問題で自国の失地を回復しようとする動きが盛んです。菅首相にはそれを止める術がない。その意志も見受けられないまま、日本外交の迷走を置き土産に退陣しようとしています。


    ◆消費税をめぐる問題も、リベラルにとってもっとも敏感な問題です。

    ◆民主党は「控除から手当てへ」を掲げました。税からの控除は、税を納められない低所得者には何の恩恵もありません。年少扶養控除を配して、子供手当てに変えた最大の趣旨はそこにあったはずです。

    ◆富の再分配について考え、格差社会を是正することが、政権交代の一つの原動力だったはずです。その格差は少しでも縮まったのでしょうか。むしろ2013年問題に代表されるように、これから高齢者の年金支給が65歳へと段階的に引き上げられます。政府は企業に定年の延長を求めていますが、それも相まって若年層の失業率は10%に迫っています。

    ◆企業に定年延長を求めながら、公務員制度改革は遅々として進まず、国家公務員が定年まで勤められる環境は整備できていません。「一に雇用、二に雇用」の掛け声は、今は遠い昔の出来事です。そして、選挙で勝利した公約である子ども手当を捨て、選挙で負けた公約である消費税増税を進めようとしたことは、もはや珍事としか表現しようがない。

    ◆2000年代の自民党政権は「自己責任」を掲げ、競争原理を重視しました。バブル崩壊以降進んでいた格差の拡大や高齢社会への対策は遅れに遅れ、財政は逼迫しています。増税が避けがたいとしても、どういう増税が公平か、リベラルな視点から論じられることは、菅政権ではついになかった。

    ◆危機に瀕したリベラルは誰が支えてくれるのでしょう。格差の縮小や、高齢者など弱者に配慮した国づくり、国際社会における緊張緩和、積極的な平和創出は誰の手に委ねるべきなのか。国のメンツよりも薬害エイズの被害者のために、問題を世に公表したリベラルのエースは、実に無惨な末路をたどりました。

    ◆民主党が今の自民党に傾斜していては、この国の政治に選択肢はなくなるのです。菅首相退陣までの3ヶ月間は、リベラルな社会を志向したはずの民主党の理念が叩き売られる日々でした。菅政権の約1年の政治は、日本のとり得る道を狭める日々だったと筆者は考えます。リベラルは死んだのか。次の首相の政治信条、政治活動が気がかりでなりません。





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    2011.08.11 Thu  - 政治 -   コメント 3件

    コメント

    No title
    三つばかり注釈させていただくとすれば。

    >竹島問題
    アレは猟師を虐殺し拉致し、人質と共に日本国内で犯罪を犯した在日朝鮮人の解放と強要してきたテロ政府によって未だに実効支配されている竹島(歴史経緯を見れば異論はないと思います)。
    そこに韓国が大統領訪問や宿泊設備の設置などの実効支配を強化しようとしていたため、日本側としても黙って見ているだけにはいかなかった……ってのが真相です。
    勿論、政府国家一丸で動くべし……とは思いますけれど、行動は間違ってないと思いますよ?
    むしろ違法占拠されている土地を無視していることこそがおかしいのです。
    (その辺りは過去の自民党政権にも大いに反省すべき点がありますが)

    >市民活動家がリベラル
    私はここがまず、間違いだと思っております。
    何しろ彼らが推進している人権擁護法案(詳しくは省きますが)ってのは日本人の言論の自由を簡単に封じれる代物です。
    いや、杞憂と思われるしれませんが「その可能性のある」法案を「可能性を指摘されながら」訂正してない時点で同罪です。
    実際のところ、反米・反資本主義思想の方々が唱えるのは、中国・ロシアのレーニン主義信仰です。
    それらの国家の方が遥かに自由のない、独裁社会だったにも関わらず、です。
    ……だからこそリベラルや共産主義者が反政府連中みたいな定義になっているのですけれど。

    >リベラル
    そして、このエントリで唱えるリベラルの定義が正しいならば、私もリベラルになっちゃうんですけどね。。。
    自由という要素を国民の財産とした上で、政府は国民の生命と財産を守るように、最小限の範囲で行動すべし。
    支持政党や意見は120度くらい違うのに、困ったものです。。。
    と言うか、双方共に自由主義・民主主義社会では当たり前のことを前提にしているだけ……って気はしておりますけれど。
    要は、政治家や政党にその当たり前のことを前提にできる連中が少ないってことでもありますが。
    2011.08.12 Fri l umama01. URL l 編集
    Re: No title

    リベラルの反対語は「国家主義」でしょう。
    本文では記載しませんでしたが、岸信介の思想はまさにそれです。
    また、格差を縮めるために冷戦期の共産主義まで行きつくこともあるでしょうね。

    アメリカのリベラルも、強いアメリカを捨てようとはしません。
    国家主義のにおいを完全に消し去ることは不可能です。

    つまるところ、比較的右、比較的左に別れるのだと思いますよ。
    いわゆる中道ですね。

    支持政党の違いは・・・政策ではなく能力の問題で自民党を支持されているのでは?
    政策的にはどうなのでしょう。

    金持ち優遇という訳でもなさそうですが、格差是正には反対なのでしょうか?
    私とumama01さんで政策にどこまで差があるのかちょっと分からないですね。

    ちなみに、私も能力の問題で今は民主党に懐疑的な目線を送っています。
    掲げた政策を捨てるからですが。


    また、外交は別の軸で考えるべきでしょうね。
    本文でも書きましたが、もはやイデオロギーの問題ではないと思います。
    どちらがより賢く問題を解決するかという知恵の争いかなと。

    古くは国家の繁栄のために中国や韓国が植民地として必要だという保守的な路線と、
    国民負担が重い、戦争回避というリベラルな路線が対立していたとは思いますが。







    2011.08.12 Fri l a.liberalist.77. URL l 編集
    No title
    国家主義の反対は民主主義だと思うんですけど、あ、民主主義の反対は独裁でしたっけ。。。
    兎に角、自由主義・個人主義・民主主義を追求していけば自ずと反対すべき物事は重なってくるということでしょう。
    その上で政策が異なるのは……お互いの望む理想へ至るアプローチの違い、なのでしょうね~。
    2011.08.14 Sun l umama01. URL l 編集

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