◆税制改革とは、イコール消費税増税ではない。そもそも全ての人に公平な増税、公平な減税という改革は存在しない。税制改革は、所得・職業・世代等を異にする人々ごとに、増税となるケースもあれば減税となるケースもある。

    ◆参議院選挙でも現在の民主党代表選でも消費税がテーマとなっているが、今の日本の政治・経済・社会情勢において、どのような税制改革が望ましいのか、税制全体を真剣に検討し、再編する必要がある。

    ◆筆者の結論から言えば、消費税増税を述べる政治家の発言は、眉に唾をつけて聞くべきものと考える。筆者の考えは大雑把ながら以下の通りだ。なお、現下の経済状況では税制改革自体タブーという意見があるが、あえてそれを無視し、税制改革を実行する前提で以下一読いただきたい。


    【消費税増税論のマジックについて】

    ◆まず、税制を考える際には、社会の維持にかかる負担を所得・職業・世代の異なる人々の中で、どのように分かち合うことが公平か、を考える必要がある。「取れるところから取る」という発想で税制を考えるべきではない。

    ◆現在、世代間格差が問題として挙げられている。高齢世代と勤労者世代、ロスジェネ世代と非ロスジェネ世代等、様々な格差が存在するが、本稿では、とりあえず前者の格差、高齢世代と勤労者世代にしぼって話を進めたい。ちなみに、団塊の世代が間もなく65歳を超えた時期の格差を前提とする。

    ◆高齢世代と勤労者世代の格差は、年金の受給、医療サービスの享受に対する負担の差だ。双方の世代の受益が仮に同じとしても、社会保険料負担については、高齢世代は相対的に低負担であり、勤労者世代は高負担と言える。

    ◆高齢世代への社会保障は、勤労者世代が負担する制度であるため、高齢世代の人口が勤労者世代の人口よりも少なければ、勤労者世代の負担は小さく、逆の場合は大きくなる。現状は、高齢世代人口が増加し、勤労者世代人口が減少しているため、勤労者世代の負担が相対的に重くなっている。今後の制度改正によっては、さらなる負担増も考えられる。

    ◆この格差を縮めるためには、高齢世代の公的負担を増やし、勤労者世代の負担を減らすことが必要となる。これを実現する手段として、消費税の増税が浮上している。

    ◆さて、消費税の増税を冷静に考えた場合、実際に高齢世代と勤労者世代の格差は縮まるのだろうか。答えはノーである。何故ならば勤労者世代の方が、相対的に消費額が大きいため、当然、納税する消費税額も高齢世代より高額となるからだ。勤労者世代の中でも子育て世代はさらに高額の納税が求められる。

    ◆高齢世代は過去の負担に対して受益が大きいとされるため、消費税増税によって高齢世代の公的負担を増加させることは一見格差を縮めるようだが、実際は何ら縮まっていない。むしろ、勤労者世代の負担を引き上げる増税だ。社会保障費の逓増状況を打破するための消費税増税とは、「取れるところから取る」という発想に他ならない。

    ◆一昔前は、消費税の増税を口にすれば、すぐに石が飛んでくるような世相だったが、財政悪化・社会保障費膨張のイメージが国民間に浸透し、消費税増税を語ることがタブーではなくなった。

    ◆国の未来を憂えて、国民に痛みを求める姿が「清廉」に見え、逆に財源はある、増税不要を主張する政治家が「選挙目当て」であるかのような世論が形成されつつあるが、一つの税だけを論じる意見に簡単に心を許すべきではない。消費税増税を訴える政治家が不誠実だとは思わないが、問題を単純化する行為は「マジック」だと考えるべきだ。


    【いかにして格差を縮めるか】

    ◆高齢世代に一定額の負担をお願いするために、消費税増税は必要だと考える。その上で世代間格差を縮めるには、勤労者世代にのみ有効な負担軽減を図ることだ。つまり、高齢者世代の増税度合いを勤労者世代より高くする税制改革を行うことだ。

    ◆そのためには、高齢者にさらなる課税が必要となる。しかし、年金で生活される高齢者に対して所得税を増税しても意味がない。方法は二つあり、彼らの資産である預貯金・住宅等の資産への課税増と、医療費負担額の増加だ。ただ、医療費負担額の増加は、高齢者内の所得格差の問題があるため現実には難しい。

    ◆従って、住宅等の固定資産税は増税対象に組み入れるべきだろう。預貯金は、利子に対しては課税できるが、預貯金そのものへの課税は難しいため、生前贈与と高齢者が亡くなられた後の相続時の課税額を増やすべきだろう(相続税・贈与税の増税)。これを嫌って消費が拡大すれば、そこは消費税増税で網をかける。

    ◆一方で、固定資産税の増税は確かに住宅購入意欲を減退させる。しかし、固定資産税は地価に大きく左右される。東京都心部等に住宅を求めれば、確かに課税額も増えるが、引退後に暮らす家を地方に求めれば、増税であっても増税幅は小さい。地方にリタイヤメント都市を建設し、生活・医療等の設備の整った都市政策を進めることもできるだろう。

    ◆勤労者世代には、住宅購入のための資金積立分を所得から控除する制度を拡充してはどうか。現行でも財形住宅の非課税額は最大550万までだが、これをもっと拡充してもよいのではないか。住宅ローン控除を拡大することも考えられる。

    ◆子ども手当制度もバラマキと批判されるが、一度集めた税金を還付する仕組みは自治体に過剰な事務負担を与えているため、子ども手当額分減税する方がよい。


    ◆勤労者世代への減税措置は、将来の支出のために貯蓄を奨励することとなるだろう。単年度の消費拡大を求める一時的な景気対策には不適格だ。しかし、国民の一生涯の需要には限りがある。一日の食事を5回にすれば食費需要は高まるが、そんなことは不可能であり、収入に限りがある以上他の需要が減る。個々人の需要を無限に高めることはできない。

    ◆消費税・相続税等は増税する。この結果、高齢者の公的負担は高まるだろう。しかし、所得税において勤労者世代を対象とした減税を組み込む。

    ◆もちろん高齢者にも所得格差はあるため、現時点の内容はまだまだ浅い。だからこそ、バランスのとれた税制を考えることが重要だ。本稿では勤労者世代の所得格差に触れていないが、当然所得税の累進課税強化も考えられるだろう。従って、政治家は常に「税制改革」を標榜すべきだ。「消費税増税」を単純に掲げるべきではない。

    ◆そして、語るべきは税制改革の理念だ。負担増が絶対ならば、どのような人・企業により多くの負担をお願いし、どのような人の負担増を軽くするか、が重要だ。その議論なき消費税増税論を、仕方がない、と簡単に許すべきではない。



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    2010.09.04 Sat  - 政策 -   コメント 4件

    コメント

    No title
    一応、突っ込みますと教授→享受ですね。

    それは兎も角。
    税制の面白いところは、公平性よりも公平感が大事という訳の分からないところがあるところでしょう。
    ですから、消費税のような一律税が、税制に詳しくない国民に公平感を与えるという意味では、実のところ間違いないのです。
    まぁ、私は(現状の)消費税増税には反対ですけれども。

    ちなみに。
    確かに高齢者の預貯金には課税出来ません。
    出来ませんが、相対的に預貯金価値を減耗させることは出来ます。
    インフレターゲット論です。
    国家資産そのものはデフレ状態で微減を続ける状況です。
    つまり、デフレである以上、ストック価値は相対的に徐々に増加し続け……世帯別の格差は広がっているのです。
    である以上、相続税やら固定資産税やらを増やすことで世帯格差を縮めるよりも、人為的なインフレを作り出すことで、ストック価値を減耗させる方が、高齢者はストックが減る感覚なしに、勤労者は動労を得られるメリット付きで……つまりが公平感を失わないままで世帯格差を縮めることが出来るのです。。。

    ああ、こういう小難しい理論のが説明し易い~。
    普段は誰にでも分かるように説明レベルを落としているので、少しばかり言葉を選ぶ傾向にあるもので。。。
    2010.09.04 Sat l umama01. URL l 編集
    Re: No title

    コメントありがとうございます。
    いえいえい、皆さんの議論についていけない時も多々あるのです。
    今後ともご指南の程を・・・。

    インフレ税などと呼ばれますが、は公平さという視点では究極の税制ですよね。
    貯蓄の多い高齢者、貯蓄の薄い勤労者世代という前提では確かによいのですが、
    貯蓄が薄いとしても、勤労者世代も貯蓄してますよね。
    学資保険とか、財形住宅だとか・・・、インフレはこっちに与える打撃も大きいかなと。

    デフレで勤労者世代の給与減や雇用圧縮などが起こる事態の方が深刻かもしれないのですが、
    私としては、なかなかインフレ容認に考えを傾けれないんですよね。

    相続税や固定資産税の増税ではパンチ力が低いとは思っているのですが・・・。

    ※誤字の指摘ありがとうございます。昨日はかき始めの時刻が遅く、かなり雑な内容で、その一端が表れているようです。
    2010.09.04 Sat l a.liberalist.77. URL l 編集
    No title
    極端なインフレを思い浮かべ過ぎ……かな?
    物資過少でないインフレは増税等の金融引き締めでコントロール出来ます。
    どうもインフレというとオイルショック等、物資過少を連想してしまう傾向があるのが難点でしょうか??
    国家の基盤は供給能力であり、供給能力さえ満足していれば、貨幣はただの手段にしか過ぎない訳ですし。。。
    私なりの共産主義……資本主義に対する反逆だと認識しておりますが。
    (この理論を提唱した三橋氏・廣宮氏にはその概念はないでしょうけれど)
    2010.09.04 Sat l umama01. URL l 編集
    Re: No title

    なるほど。私自身は通貨安定を重視する考えですが、
    確かに輸入インフレでない限り、
    金融引き締め等でも防止することも可能でしょうね。
    その意味では、選択肢から完全に排除することはないかもしれません。

    ただ、現実にインフレを起こすには、金融政策は相当緩和されていますから、
    やはり、財政政策ですかね・・・。

    インフレというからには、トータルとしての物価指数を上がるということになりますが、
    製造業が新興国との競争で輸入デフレ状態の中で、他の財・サービスの価格を
    上げる手段が難しいですね。

    日銀による国債引き受けか、それともダイレクトに通貨発行益をはじき出すか・・・。



    2010.09.04 Sat l a.liberalist.77. URL l 編集

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